30番地 シャクトリンゴの道2
俺の前に、シャクトリンゴとピヨ丸がかしずいた……気がする。
シャクトリンゴ。
(道夫様。こたびは辞去の挨拶に参りました。長らくお世話になりましたが、私にも新たな夢ができました。この転生後のダンジョン世界で素晴らしき料理人になることです。
私の身に大きな変化がありました。そもそも、私の種族は自らの体を苗床としてキノコを栽培し、それにて食料を確保しておったのです。属性の間に入ることにより、私はその能力を取り戻しました。
蓮華様が管理されておられる畑ではキノコは栽培されておらず、その味を懐かしんでは、口さびしさをまぎらわしたものです。しかし、道夫様のダンジョンでは様々なキノコが自生しており、今では私の体ですくすく育っております。そして、先ごろ、皆さまに食べていただき、更には喜んでいただきました。私はといえば、天にも昇る気持ちでした。ああ、私の生きる道はここにあったかと。
他のダンジョンに赴けば、未だ見ぬキノコがあるのではないか。そう、期待するのです。ピヨ丸様も私の食材探しの旅に同伴してくださるとのこと。彼自身も私と同じく料理人の道を志してのことと想います。何せ、彼の炎は未だ小さく、戦闘より料理向きですから。
他のダンジョンを巡って、新しきキノコを集めて戻って来ます。そのときは道夫様と蓮華様にたらふく食べていただきたい。今からそれを楽しみにしております。それでは、お体を大切にご自愛くだされますよう)
心中は上記であったが、実際は無言である。
ピヨ丸。
(シャクトリンゴ殿が武者修行の旅に出るというので、拙者も共に赴くことにしました。ミーたん師匠の下での修行により、多少は大きな炎を吐けるようになった、そのように自負しております。『地獄巡り』にては終生のライバルたる『屁こき野郎』殿とお手合わせ願えるものと考えます。果たして、通じるのか通じぬのか、楽しみであると共に怖くもあります。
強くなって戻って来ることを約束いたします。それがミーたん師匠への恩返しであり、また、そうなれば、道夫様はじめマスターの方々のお役に立てるかと存じます)
その心中は上記であったが、実際はピヨとしか鳴かぬ。
うむ。良く分からんが、何だろう。きっと何かを伝えようとして、こうしておるのだろうが。しばらくして、2体が別のダンジョンに移ったことを知る。シャクトリンゴが頭にピヨ丸を乗せて、隠し通路に入って行くのを目撃した者がおったのだ。何か求めるものがあってか。どうやら、各々成長しておるようで、嬉しい限りである。俺は何もしてやれてねえが。