28番地 運営政府5
不動明王の沈思は、先の会議の後の第4人格との会話にさかのぼる。そのぱっちりお目目の顔を想い出すと、ついつい笑みを浮かべたくなる御仁との語らいへと。
第23人格の中でも、そのAたる己はかの御仁になついており、その慕い方は師事と言い換えても良いほどの敬意を伴っておった。先の会議も、第12人格の専横を恐れた己が、頼み込んで出席してもらったのであった。
「会議にて、第3人格が空位のままであることには理由があるとの仰せでした。それはどのようなものでございますか?」
「見た目通りよ。実質、あの者は第3人格の位階のままということよ」
「少し分かりにくく想いますが」
「あの者の力が減じられたり奪われたりはしておらぬということ。本当にあの者が母上にうとんじられておるのなら、母海に再び戻されよう。そうでなくとも、力は奪われるはず。そうならぬということは、そのことそのものに大きな意味があるということ。母上にとってね」
「それは、果たして、どのようなものなのです?」
「第3位のほかに空位があることは知っていよう」
「はい。第1位です」
「なぜ、そうなっておると想う」
「はあ。我などには見当もつきませぬ。それに値する者が未だ現れてはおらぬということでしょうか?」
「繰り返すが、これはあくまで推測じゃぞ。その位階は母上ご自身のためと想うのじゃ」
「はあ。まあ、確かに母上は我らより上。ならば、当然とは想いますが、それだと、なぜ、今もって空位なのでしょう」
「母上は未だ母海の中におられる。それゆえであろうと、わしはにらんでおる」
「ならば、母上自身が析出する意図があると」
「ふむ。これはわしと第3人格の共通認識でもある。恐らく、母上は何事かをなすために、自ら析出するお考えであると」
「はあ。なかなか想像しがたいことですが」
「まあ、そうじゃろうな。まさに前代未聞。かつて一度もなされなかったことであるからな。そして皮肉にもわしや第3人格が消されずに済んでおるのは、それが理由と想われるのだ」
「どういうことです」
「わしらは析出=個体化することにより特殊な力を得る。そなたのバーサーカーの如くに。ただ、母上自身に限っては、その析出の際、この個体化に難があるのではないかと。つまり母海という集合意識のまま個体化するのは難事であり、それをなすためには、その集合意識のある程度を先に析出しておく必要があるのではと。まさに、それが我々にほかならぬと、そう考えておるのだよ」