26番地 索敵4
「なんで、何の関係もなき第4人格の貴方がここにおられるのかのう?」
一応、上位ナンバーであることに敬意を示してか、ただ一人椅子を与えたその者に対し、そんな言葉が吐かれる。
「弟子たちの活躍を師匠が聞きたいと想うて何が悪いんじゃ」
「初耳ですね。誰が師匠ですと」
文字通り、刃にて全身を構成した第12人格が、丸っこく可愛らしい福だるま人形に覆いかぶさるばかりの態勢で、そう問う。姿形のみを比べるなら、その強弱は明らかであるが、そうはならぬのが運営政府でもある。
「それは当たり前なのじゃ。そなたは重要なことを知り得るポジションにおらぬからのう」
「何ですと。確かに貴方は私より上。ただ、あの愚者でもあり裏切り者でもある元第3人格。あれとの付き合いが最も深いとも聞き及ぶところ。ならば、のちのちは貴方もあの者の如く降格となるは必定」
いらつきもあからさまに第12人格は、椅子に座る福達磨の面前を行ったり来たりする。
「だから言うておろう。そなたは重要なことを聞ける位階にはおらぬと。それゆえ、なぜ第3人格が空位のままなのかに考え及ぶこともないのじゃ」
ついに、全身刃の男――第12人格は、その腕――それもまた鋭利な刃である――それを福達磨の顔に触れんばかりに近づける。
「手も足もない貴方が、どうやって身を守るのか、是非見たいものです」
「試してみるか?」
平然とそう問い返す。
脅しても無駄とあきらめたか、刃を引くと、
「それはしかるべきときに譲ろう。今日、なすべきはこの者たちの問責。弟子たちの活躍を聞きたいとおっしゃられましたな。そもそも入るダンジョンを間違えるという信じられぬあやまちを犯し、ゆえに当然のこと、ろくな情報も得られず、逃げ帰って来る始末。しかも一体を損傷して。あれが再び使えるようになるまで、どれだけ時間がかかると想うておるのです。この者らの1体の再析出(=固体化)を認めぬことは無論、残り2体も共用なる母海に戻ることとなろう」
福だるまの後方に控える2名――不動明王とゴム・マンボウ――そのうちの前者が口を開く。
「我らが赴いた先は、確かに『運ゲー野郎』でした。それがなぜか『地獄巡り』に飛ばされたのです。恐らくは、マスターのアビリティたる『ランダム配置』によって。それは提出した記録データを見れば確認できるはず。我らが聞いておったアビリティは『隠し通路』と『硬化』のみ」
「そうか。そうか」福達磨の嬉し気な声が続く。「そもそももらった情報に欠落があったのじゃな。とすると、仮にこたびの索敵が失敗だとして、その責任は、そんなデタラメを伝えた方に問うべきとなりそうなもの。それにそなたはろくな情報も得られなかったと言うた。ただ、わしの知る『ランダム配置』は同じダンジョン内でのみ移動するもの。異なるダンジョンに移れるとすれば、とんでもない上位版のアビリティが新たに出現したことになる。これが重要でないとはとても想えぬが。ならば、先のそなたの如く、これを失敗として、その責をこの者たちに押し付ける必要もないというもの」
結果、我らは処分されることなく、会議は終わった。ただ、向こうは陰険な仕打ちをして来た。換装体の記録データを確認したことを皮肉に伝えんとしてか、第23C人格は『猿もどき』に換装されて戻って来たのだ。




