24番地 索敵2
不動明王は薄っぺらいダンジョンのフタを開いた。縄ばしごがあるも、己の体重は支えきれまいと見て取ると、面倒とばかりに下へ飛び下りる。次にオーディンが槍を縦穴の底に向けると、槍はするすると伸びる。それを軸に、器用にくるくる舞い降りる。
「神将というより、猿もどきじゃねえか」
猿もどきという偵察専用の換装体があるのだ。
「格好は悪いし、のろいし、最悪ですね、これは」
ゴム・マンボウは悪態をつきながらも、ふわふわとしか降りぬ。
敵が待ち構えているかもしれぬので、3体そろってから入る。
「もむけのからか」
不動明王の声が低く響く間もなく、部屋の様子が変わる。
「何だ。これは?」
とゴム・マンボウ
「どうやら違う部屋に移ったらしい」
とオーディン。
壁が放つ柔らかい燐光は同じであるも、部屋の大きさが倍ほどにも感じられる。
「これがマスターのアビリティという隠し通路か」
不動明王はそう言いつつも、油断なく周囲に目を走らせる。
「俺が知る限り、これはランダム配置という質の悪いアビリティだ。情報が間違っているようだ。帰るか?」とオーディン。
「何を言う。せっかくだ。潜って行こう。情報の誤りが私たちの責任でない以上、後で文句を言われることはないわよ」とゴム・マンボウ。やはりふわふわ浮いておる。
オーディンのお前はどうなんだという視線に、「我もそうしたい」と不動明王が答えると、3体は進みだした。
地下2層への階段を下りたところの部屋は、最初の間以上に広かった。
足元に何か小獣らしきものが近づいて来る。
不動明王は何だ?とばかりに拾い上げる。
「気をつけろよ」
とオーディンが言う間にも、その小獣は尻を持ち上げる。尻から何かガスらしきものが出たようで、全身にまとう薄物のその部分がふくらむ。すると、その小獣は苦しみだした。どう考えても、ただのアホと結論付け、不動明王がポイと投げ捨てると、小獣は器用にもくるりと舞い降り、逃げ去る。
代わりにのっそりと姿を現した偉丈夫。その手に持つは、巨大な鞭。ただ尋常なものではなく、あちこちから光が爆ぜておる。
「その槍。よもや、オーディン殿か。先の風神・雷神に続いて、こたびも神将。これも、マスターの声明のゆえか。まさに感謝せねばなるまい。我は雷公。よろしくお手合わせ願おう。心配なさるな。この部屋では、マスターのアビリティは発動せぬ」
「雷公? 情報。めちゃくちゃじゃない。第12人格の野郎。私たちをはめたのか?」
ゴム・マンボウは気色ばむ。
「なんでも良いわ。楽しませてもらうとするぞ」
とオーディン。
「やっと本性あらわしたか。といっても、もともと私たちは一つ。第23人格を分けたに過ぎず。気持ちは分かるわ。好きにして」とゴム・マンボウ。
「言われずとも」とオーディン。
もしかして、カマイタチさん、いないの?と気づいた可哀そうな不動明王。