第6話 気付き
俺は途方に暮れることはなかった。結果は散散であったが、これまでとは違う。ようやく、こちらにも一つ頼りにしうるものができたのだ。
一種のアビリティと言って良い。まるでゲームじぇねえか。いや、そもそもここはゲームの中だったか。いずれにしろ、きっとまだ俺がうまく使いこなせてねえだけだ。やりようによっては、ワンチャン、勝てるんじゃないか。ゲーム大好きの心がうずき出したようだ。何せ、これまでは、そうしたくてもできなかったのだ。
とにかく、はっきりしていることは硬化の持続時間はわずか三秒。三十秒待てばまた使えるようになるようだが、その間、もちこたえることは俺には無理。となれば、ほぼほぼワンアクションで勝ちというところまで持って行かなければならぬ。うーむ。
そのヒントを求めて、これまでの戦闘を想い返してみることにする。痛みと恐怖がよみがえるので、はっきり言って苦痛だったが、避けては通れぬ道と想えた。
そうこうしているうちに隣室から彼女が入って来た。食べ物をたずさえて来ている。どうやら昼食の時間になったらしい。いつもなら、もう少しちゃんと会話するのだが、今回は「ありがとう」とだけ言って、想い出しの継続に戻る。
その様に興味を引かれたのか、彼女はかたわらに座り、こちらを見つめる。ストレートの白銀の髪は肩を通り越して伸び、透けるような白い肌の美少女が、その黒瞳で俺を見つめるのだ。うれしさにほだされ、「どう見ても女神様だ」などと言いたくなるが、我慢、我慢。
ただ、硬化を得る前の戦いからは、何の得るところも見出せなかった。なので、硬化を得てからに集中する。敵の初撃を防ぐというところまでは、できているんだけどな。その後、どうするか、まさにそこが肝心なんだが。そこで、俺はアレッと想う。何で、防ぐを得ているんだ? しかも相手が何の武器で襲って来ようとである。
「嬉しそうね? 良いことが見つかったの?」
彼女の声。
「そうだね。丁度」
「教えてくれないの?」
「うーん。ちょっと説明が難しいんだけど、勝てる根拠が見つかったという感じかな」
「根拠? 勝てる方法ではなくて?」
「そっちはまだなんだ。でも、これはこれで重要と想えてね。俺の考え通りなら、きっと勝てるはず」
「ねえ。教えてよ」舌っ足らずの声で、そうせがまれる。
「戦闘では俺はうまく防ぐことができていた。敵のどんな攻撃もね。もちろん、体を固くすることができる間だけとはいえね。でも、前の世界では、特に格闘技の経験がある訳でもない。ましてや武器での戦闘なんてね」
「ふーん。そうなんだ。ダンジョン・マスターとして召喚したら、あなたが来たから、もっとすごいのかと想っていた」
おいおい。そこでしらっと俺が気落ちするようなことを言うんじゃねえと想うが、それが現実だ。
「じゃあ、なぜ、うまく守れたのか? そこはゲームが補完したからだと想うんだ」
「ゲーム?」
彼女は眉間にしわを寄せ、不審さをみなぎらせて問うて来た。やはりそういう認識はないのか。自らの世界がゲームなんて、想像すらすまい。予想できたことなので、これまでそっちの話題は避けて来たのだが。とりあえず、言い直すことにする。
「うーん。何というか、この世界の決まりというか、ああ、そうそう、こう言えばいいかな、因果律によって助けられているんじゃないかと」
「因果律?」
彼女はその言葉に新たな不審を呼び起こされたようだ。しかし、おかげで、『ゲーム』という語は上書き消去されたらしい。それで俺は話しをそらすを得た。というか、本来の話に戻った。
「プレイヤーを助ける因果律が俺の方も助けているんじゃないかと想うんだ。そう、プレイヤーも武術の経験はないはずだからね」
「プレイヤー? 敵のこと?」
「そうだ。前の世界ではそう呼ぶんだよ」
やはり俺はそっち側への深入りを避けた。彼女はそのかわいらしい顔をかしげた。
「なんだか、難しそうな話ね。でも、少し元気が出たみたいで安心したわ。心配してたのよ」
彼女はそう言い、食事を置いて戻って行った。この異世界での優しさに触れ、俺は想わず泣き出しそうになっていた。