17番地 ダンジョン『存在の空処(くうしょ)』
「しかし、ダンジョン名そのままに、存在しないも同然のここに、そなたもよう訪ねて来てくれるのう」
運営使者はダンジョン・マスターの前にかしずく。その所作は、この者の普段に似合わず、慇懃なものであり、その印象のままにいえば、まさに本物の主人に侍る巨大白猫となろう。
「何をおっしゃいます。でも、このダンジョンもまさにモンスターがあふれるほどですね」
「増えるばかりで、減ることがないからな。といって、彼女に召喚するなとは口が裂けても言えぬ」
「喜ばしきことと存じますが」
「うむ。我もそう想う。で、今回は何を報せに来てくれたのだ?」
ここで運営使者は4つのダンジョン『地獄巡り』、『ぺろぺろ』、『無勝堂』、『運ゲー野郎』が隠し通路でつながり、ダンジョン連合のごときが結成されたことを告げる。
「ほう。これまでになきことだな」
マスターは想わず身を乗り出す
「ここにも隠し通路をつなげてはいかがです。いつでも、三助――運ゲー野郎の使者ですが――をかっさらって来ますよ」
「はやまるな。まだまだだ。それに、どのみち、動くときには動く。そなたや我が何をどう望もうとな」
「でも、好機を待っていらっしゃるのでしょう?」
「誤りはたださねばならぬゆえな」
「しかし、挑戦権の行使における史上唯一の勝利を誤りと言われては、運営政府もどんな顔をするのやら」
「それはどうでも良いが。いずれにしろ、我が動くには彼女の許可が必要。何せ、彼女の愛するモンスターたちを再び危険にさらすことになるのだからな」
そう聞いて運営使者は居住まいをただして、
「あ奴らだけでもなんとかなるやもしれませぬ。決断は慎重の上にも慎重を」
「うむ。そなたの言うとおりだ」
あらゆるまぜっかえしとは無縁に、謁見は終わりを迎えた。