16番地 4番目のダンジョン3
三助たちが去ったダンジョン『ぺろぺろ』のマスターの間にて。
「おーい。来てくれ。どうやっても頭が入らぬ」との声が上から聞こえて来る。
マスターはしばらく聞こえぬ振りをしておったが、同じ言葉が何度も繰り返されるので、仕方がないとばかりに立ち上がる。
「やはり会いに行きますの? 誰かを迎えにやれば」
「一応、あやつなりの心遣いらしい。ダンジョンの外は監視対象外だそうだ」
マスターは、マスターの間の小玄関ともいうべき部屋に入る。すると、彼の姿は消えた。自らのアビリティ『ランダム配置』が作動したのである。やがて、地下1層の入口近くの部屋に姿を現す。そのまま縄バシゴを上ると、入口を塞いでいる頭をグイと押しやりつつ、自らも地上に出る。
「助かった。どうやら、体のサイズを間違えたようじゃ。ふはは」
マスターは何も言わぬ。
「冷たい奴じゃのう。わしの猿芝居に付き合う優しさもないのか」
「好きに言ってろ。で、何の用だ」
「いや、そろそろ挑戦権を行使する気になったのかな、と」
「馬鹿らしい。あれが罠だと知らぬ我と想うておるのか?」
「いんにゃ。『ペロペロ』のマスターはなんでもご存じ。それくらいはわしもご存じ」
「ふざけた奴だ」
「何しに来た? よもや、あの者たちの後をつけて来たのか?」
「おお。何と、カンの良いお人じゃ」
「しらじらしい。同日に訪ねて来ておいて。もしかして、そなたの肝いりか?」
「いんにゃ。ただ、面白い奴らじゃ。退屈せぬ奴らじゃ。『隠し通路』を与えたら、面白いことをしだした」
「やはり、一枚、噛んでおるようだのう。何をたくらんでおる」
「人聞きの悪い。退屈しのぎじゃ」
「運営政府はそなたの動きを知っておるのか?」
「わしには何もできぬと想うておる」
両者の間に沈黙が降りる。
「時には本音が漏れるか? 我も、穢れを知らぬ純潔の花嫁を、同盟者に求めている訳ではない。まあ、良い。これからは、ときどき来るがよい」
「お楽しみじゃ」
巨大白猫は嬉々として去った。