12番地 4番目のダンジョン2
ところで、4番目のダンジョンに入った三助と地走り。彼らはまさにマスターと謁見しておった。三助が『運ゲー野郎』ダンジョンから来たこと、己は三助、傍らにおるは地走りですと告げた後のこと。
「悪気はないのだ。こけおどしとして、わざとこんな体を見せつけておる訳ではない。我が元いた世界とは恐らく物理定数が異なるのだ。それゆえ、こんなことになっておる」
マスターの言葉を、召喚師が訳して伝える。二人は同じ椅子に腰かけておった。道夫の椅子とは全くことなる、しゃれこうべなども用いておらぬ、簡素な設えのものであった。マスターの体は無数の渦の混合体としか呼べぬものであった。まるで生命活動ゆえという如く、各々の渦は成長しては消え行く。
「元いた世界ではもう少しまともなのだよ。ちゃんと安定しておるのだ。少なくとも形状を保ちがたいなんでことはない。想像しがたいかもしれないが」
三助は、おっしゃる通りです、とても想像できませんと、想わず心中を伝えそうになったが、何とか踏み留まる。それでマスターが機嫌を損ねないとも限らぬゆえに。これで使者の役目は3回目。多少は慣れ、相手の心中をおもんばかる余裕もできておった。
「ほう。隣におるのは。地走りと名乗っておるのか。そなたたちについては……」
ここで召喚師は訳すのを止め、何事かをマスターに告げる。
このダンジョンの召喚師は、己の召喚師様と比べると、より大人であり、といって無勝堂の召喚師の如く色っぽいという訳でも無く、むしろ理知的な印象を受けた。長身のすらりとした体と細面。そしてやや大き目な口から出るのは、湿り気を帯びた柔らかな声音。ただ明るい赤い髪と、それよりは暗い赤色の瞳がその優しい外見に隠された熱いものを、図らずも漏らしている如くに感じられた。その彼女が尋ねるには、
「ところで、何か用件があって来たのでしょう。それをうかがいたいわ」
三助が口を開こうとすると、地走りが彼の体をつかんで揺する。今、三助と地走りは並んでマスターたちの前に座しておった。三助は、その意を察し、
「この者は、先ほどマスターが口にされたことの続きを聞きたいようです。もし、よろしければ、お聞かせ願えませぬか?」
「地走り殿の一族についてのあまり良くない噂だ。ただ、心配はいらぬ。そなたら幼生についてではない。問題は成体どもよ。ただそなたたちとは初見。続きは、もう少し仲良うなってからな」
マスターがもう言う気は無いと分かると、三助は使者の目的を説明しだした。
マスターの了承を得て、共に行くのは双翼スライム。使命を果たし、更には恋の予感も加われば、心ははじけ、ウキウキの三助。他方で地走りは何か思いつめる風であった。三名は来た時と同様にマスターのアビリティ『ランダム配置』により、出口へ向かう。
残されたマスターと召喚師の会話。
「あの地走り。どう想う? 『運ゲー野郎』は、運営政府の犬であると誇示したくて、あれを共に送って来たのか?」
「あら。口の悪い。でも、犬といえば犬なのは間違いないわ。それはどのダンジョンもそうだという意味でだけど。運営政府を異様に嫌う貴方の方が稀な存在よ。でも、向こうの申し出を受けたわね。どうして?」
「こちらに引き込んでやろうと想ってね」
「まあ。恐ろしい。でも、確かに貴方と仲良くすると、反運営政府のレッテルを貼られるかもね。そこらへん、向こうのマスターはちゃんと考えているのかしら」




