10番地 凶報まがい4
「どう想う? 信じられるかな?」
俺はひとしきり話した後、尋ねてみる。
「正直、信じがたいです」
敷物の上にあぐらをかく俺の隣におる鉄チンは、あっさりそう言う。
「私が元いた世界には、電子ゲームというものはありませんでした。なので、ゲームそのものにもなじみがない訳ですが。ただ、ゲームの世界に入ったと理解した方が納得しやすいと想います。道夫様のおっしゃる如く、ゲームというものから一つの世界ができるというのは、途方もない冒涜のような気がします」
「冒涜?」
「はい。神に対してです。我らスライムの世界は、神により造られたとされます。それは、まさに神が我らを愛するゆえに、我らにとっての安息の地として、造られたと」
(造物主という奴だな。マンガやアニメにも良く出て来る。本当にそんな存在がいるか否かは別にして、鉄チンの世界がスライムのために造られたとするなら、この世界はどうなる? 原住の地走りのためか? ただ、どうにも、そうとは想えない。であれば、召喚師、それともダンジョン・マスター、それとも多くのモンスターたち?
いや、やっぱりプレイヤーのためであろう。でも既にゲーム『ダンジョン征討記』は存在するのだから、改めてそれに基づいて世界を作る必要などないんじゃないか? もしかして、俺の考え方そのものが間違っているのか? あるいは、何かを見落としているのか?)
俺はあらためて鉄チンに依頼した。今日した話を地獄巡りと無勝堂のマスターにも伝えて欲しいと。ただし、無理に納得させる必要はないと。この世界の現実――まだ謎の部分も大きいが――それへの理解を深めることこそが問題の解決への近道と想われるからだ。俺とは異なり、『ダンジョン征討記』で遊んだことの無い者にとっては、にわかには信じがたいことであったとしても。
そして、問題の方。俺は再び口を開く。
「女神様をどうやって守るか? 彼女をかたわらに置いて、あるいは俺たちが彼女の部屋に入って守るというのは、藪蛇になりかねない。却って、敵に彼女の存在を知らせることになってしまう。敵が女神様を狙って入って来ているのか、そうでないかが分からない以上、これらの策は取りたくない。とにかく、今の俺には、これといって良い策はない。なので二人のマスターに、他に良い策が無いか、考えて欲しいと伝えて。
そして、地獄巡りのマスターへ、警告してくれたことへの感謝を伝えて欲しい。更には、召喚師様のご冥福を祈りますとも。頼みごとが多すぎたかな?」
「いえ。決して。それ以上に、私は嬉しいのです。私にしかできぬことがあることが。私は何のために、ここに転生して来たのか? ずっと、それを考えておりました。他のモンスターに比べ、言語能力ではお役に立てるとはいえ、それもあらゆる言語をこなす召喚師様の劣化版というに過ぎません。戦闘ではまったくの役立たず。しかし、こたびの件は、ご自身のお命にかかわるからこそ、召喚師様にとっては動き辛い状況ともいえます。まさに私にうってつけの役割です」