5番地 地獄巡り
鉄チンはダンジョン『地獄巡り』に戻って来ると、早速、マスターに報告した。
「召喚師様の死の件、言われた通り、各々のマスターに報告して来ました。ただ、両人ともあまり納得しておらぬ様子でした」
「そうか。残念だ」
そう答えるマスターの肩の上には、『屁コキ野郎』が。今も、そのケツをできるだけマスターの鼻に近づけようと、モソモソしておる。マスターいわく、こやつの屁は、かぐわしき香りとのこと。我の心の癒しとなるとまでおっしゃる。
鉄チン自身、マスターの寵を得ているとの自覚はあるが、その寵を争うライバルがこやつというのは、どうにも気に入らない。
もしかして、マスターが私を気に入っているのは、私の言語能力ではなく、今なお残る――そんなことはあり得ぬと信じるが――臭いのおかげなのか。蓮華様をして私を臭いと言わしめた運営使者との事件。ああ、想い出したくもない。そんな妄想に駆られ、ついつい自らの体を嗅いでしまうのは、せつなくも悲しい。
そして、こやつの屁が漂い降りて来て、私の体を温めるために吐かれたピヨ丸の炎により点火され、見事爆発。しばしば私をして気を失わせることも、また気に入らない。
プウとの音が上から聞こえ、爆発の被害に遭わぬために、多少、マスターの足元から離れた後、
「『運ゲー野郎』のマスターから質問がありました。マスターはご自身でそれを目の当たりにしたのかとの」
「見たといえば見たし、見ていないといえば見ていない」
私は正直、何、言ってんだか、分かんねえぞと想ったが、そんなことを口に出せるはずもない。しかし、どうやら、顔には出ておったらしく、
「悪い悪い。分かりにくかったな。実はレベル0モンスターの中に、目で見たものをそのまま記録できる者がおってのう。その者を介して見たのだ」
「そういうことでしたか」
「今は『運ゲー野郎』か『無勝堂』のどちらかにおるはずだ。名を『双眼 鏡子という。悪いが戻って二人に見てもらってくれ。その方が万言を費やすより、私の警告に耳を傾けるべきとの証となろうから』
やはり、私はすぐに顔に出る質らしい。
「もちろん、十分、休んでからで良い」
との言葉がその後に上から降って来た。