4番地 地走り3
地走りは心地よさの中にあった。頭の上の三助のワクワク感が伝わって来るからだった。彼らは三度、地上に出て、新たなダンジョンを求める旅の中にあった。ダンジョン・マスターのアビリティ『隠し通路』の本数が1本増え、計3本となったゆえだった。
地走りはやはり手前のダンジョンをいくつか通り越して来ていた。しかし、今回は異臭というあいまいなものではなく、視覚データという明晰なものに導かれてであった。ただ、ダンジョンの特徴である陥没とはまったく真逆の『隆起』を目印に、彼はここに至ったのだった。
果たして、彼はそこでそれと出会った。己よりはるかに巨大であり、形もまったく異なるにもかかわらず、己の始祖かとわずかに期待する気持ちもあった。それの周りに他の地走りも群がり集っておるゆえだった。
それはたくさんの足を外側に向け円状に展開しており(注:足がたくさんあるヒトデを想い浮かべてもらえばよい)、しかも、その足には穴が開いており、他の地走りたちはそこに頭を突っ込んで、じっとしておった。
地走りは己もそのうちの1本に頭を突っ込むことにより、新たな情報――未知の情報を得られるのではと期待した。特に欲しいのは始祖についてであった。
ただ、そのためには三助に降りてもらう必要があり、地走りは小刻みに体を揺する。それで察してくれたようで、三助は頭から降りてくれた。何か文句を言われるかと想ったが、三助もそれに興味を惹かれたらしく、一心に見上げておった。
彼は恐る恐る頭を突っ込み、それから自らの頭の中の映像を送った。しばらく待っても何も帰って来ない。まるで相手が戸惑っているように感じられた。
「修復子の誤・転生体を発見。処分対象と推定。確認と処分の具体的指示を求める」
いきなり声が聞こえた。己相手に話しておるのでないのは明らかだった。
「指示を繰り返す。処分は記憶領野の上書き。適用は修復子用の最新ヴァージョン。ナンバー9655」
地走りは事態が望まぬ方向へ進んでいることを察し、頭を引き抜こうとするが、力が入らない。何かが頭をくるんでおる。というか、そうなるように己が頭を突っ込んだのだった。
「結果報告。上書き不能。上位指揮者たる『運ゲー野郎』の許可が必要と想われる。再度、処分の指示を求める」
地走りはこの隙をと想い、あがくも、体は震えるのみ。
「了解。釈放する」
その言葉と共に地走りの体は自由となった。彼は急ぎ頭を引き抜くと、三助を頭に乗せ、その二つ名にたがわぬ逃げっ振りを見せた。