第4話
そのあと、俺は八回殺された。そして、その間に得られた能力向上は、攻撃力一%上昇が六回、防御力一パーセント上昇が二回。どうやら、この二つのどちらかが得られるらしい。プレイヤー側の場合、腕力や知恵といったもう少し細かいステータスがあり、これらが上昇する結果として、防御力・攻撃力が上昇したと記憶しているが。モンスター側だから、そこが手抜きされているのか?
とはいえ、問題はそこじゃない。とりあえず、俺はこの上昇が実際の戦闘においてどの程度の恩恵をもたらすものなのか、試してみることにした。数字上は小さくても、実感しうるものがあるかもしれないと、期待を抱いたのだ。
ただ、何度、試みても、いともたやすく返り討ちにあった。ほぼほぼワンパンである。まさに雑魚敵というほかない。
正直、ゲームの仕様をちゃんと理解して遊ぶタイプではないので、あやふやなのだが。恐らく、この攻撃力や防御力におけるプレイヤー側との差が、戦闘の結果に直結しているとみて、間違いあるまい。つまり、現状、その開きが大きく、数%程度上昇しても、何の役にも立たんぞということらしい。
その差を埋めるためには、果たして、どれだけかかるのか? 何回、殺されればいいんだ。百回か? 千回か? ゲームというのは、本来、プレイヤー側が楽しむために作られているのであるから、こんな仕様も許されているということか。ただ、だからといって、俺がそれに付き合わなければいけない理由も、また、ない。
いつも通り、彼女は自室に引っ込んでいる。まさに頃合い。百計、逃げるにしかず。俺はなるべく物音を立てないように立ち上がると、忍び足で離れる。
そして静かに扉を開き、ハシゴのある縦穴に入ると、扉をそっと閉める。そして、ハシゴをゆっくりと昇り、ダンジョンの入り口にあるフタを押し上げる。
そこからのぞける風景は、以前に見たものと変わらない。遠くに山並みらしきものは見えるが、とりあえず、この近くの四方は、えんえんと荒れ地が広がっている。人家も、それより大きな建物もまったく見当たらなかった。
まあ、いずれにしろだ。このゲームはダンジョン攻略もの。ダンジョンにいるから、プレイヤー側にやられるのであって、そこから出てしまえば、万事解決。その希望をもって、俺は外へと踏み出すのだ。
とりあえず、山並みが最も近い方角に向かう。山に入れば何とかなるという保証があるわけではないが。ただ、荒野に比べれば、水も食糧――まずは、果物や木の実など――加えて隠れ場所も見つかりそうな気がするのだ。もっとも、満足なサバイバル経験も無い俺の当て推量にすぎないし、そもそも、ゲームの中では、ダンジョンの外については描かれていなかった。なので、一つ一つ情報を収集する必要があった。ただ、そこには少しワクワクするものを感じる。ダンジョン・ゲームのルールを無視して、その外の冒険に明け暮れる。悪くないぜ! ここからが本当の始まりだ!
ただ、どうしたことか、百メートルも進めない。そこから先は、ひもで結わえられた番犬のように、ぐるぐる回るしかできない。
「何だ。これ」
その後も歩き続ける俺。しかし、ダンジョンの周囲をぐるぐる回っているだけである。そんな俺に不意に声が聞こえた。
「出られないわ。だって、あなたはダンジョン・マスターだもの」
彼女であった。俺の不在に気づき、上がって来たらしい。
「そんなことって、ありか?」
「だって、あなた自身が認めたじゃない。それになることを」
「何だ。そりゃあ。確かに認めはしたが」
まさにクソ仕様であり鬼畜仕様であった。