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第35話 更に別のダンジョン1

 地走りが一人で帰って来たゆえに、三助の身に何かがあったことを知った。そして、地走りの体に巻かれている帯――三助はこれにつかまって己の体を安定させるのだが――それに赤色の飾りひもが結わえられておることから、三助がダンジョンに入った後に、何かがあったと分かる。


 往路は黄色、復路は青色の紐を結わえることを、三助と取り決めておった。これにより、どの過程で問題が生じたかを知りうる。


 地走りは色が見えぬようだ、三助がそんなことを言っておったこと――女神様づてで聞いたのだが――を想い出す。言葉を話せぬ地走り――それはこの名コンビの欠点であった――と意思伝達の方法はないか、議論していてそんな話になった。


 また、三助が命を落とした訳ではないことも分かっておった。それならば、ここのダンジョンにて復活するはずだった。このことは、カマ次郎や岩兵衛が無勝堂で亡くなったときに、証明されておった。


 恐らく、三助はダンジョン内にとらわれておるのだろう。ただ、俺たちは途方に暮れる必要はなかった。三助を救出に赴くにおいて、俺のアビリティ『隠し通路』は役立つはずだった。最も有用であるとさえ言って良いだろう。


 俺は三助のことを思念し、三助が今いるところに隠し通路を通した。そしてリス吉に偵察に赴かせた。隠し通路はリス吉の姿は完璧に隠してくれる――向こうからは、通路が通じたあとも、かねてからの壁が見えておる。しかし、音は筒抜けである。なので、なるべく足音の小さいこの者を選んだのであった。


 戻って来たリス吉の報告によれば、一室の中に閉じ込められておるが、しばられてはおらぬとのこと。

「元気そうだった?」女神様が聞くと、


「そこは分かりませんが、ケガをしているようには見えませんでした」とのこと。


「そう」女神さまは少しばかり安堵あんどの表情を浮かべる。


 俺はリス吉と地走りを赴かせることにした。地走りは帰って来てからも、最下層たる第3層に留まり続け――本来、この者はダンジョンの下層は好まぬはずであったが――明らかに三助の身を案じているようだったので。ただ、なるべく他に誰もおらぬときに救出に入り、気づかれぬままに逃げて来るように、2体には告げた。


 俺はやはり隠し通路の途中――俺が赴ける限界で待つ。女神さまも一緒に待ちたがったが、向こうのダンジョンの者が追って来たら危険ということで、せめて俺のダンジョンの中で待つように言い、彼女はしぶしぶ従った。代わりに鎌次郎と岩兵衛にかたわらにいてもらった。争いになることは望まぬが――そうなっては、本末転倒である。何のために三助を発したのか分からぬ――万一に備えてであった。


 しかし、こんなことになるとはな。俺は喉に乾きを感じつつ、待つ。隠し通路で結ぶ距離は決して長くないはずなのに、待つ時間はとても長く感じられた。


 ついに無事に戻って来た三体を見て、俺はほっと胸をなでおろす。三助は何ごとかを言ったけれど、残念ながら、分からぬ。俺はよく戻ったと言い、三助を乗せたままの地走りに、先頭を進むよう、うながす。皆で少しばかり急ぎ足で戻りながら、俺は最後尾に位置して何度も後ろを振り返る。向こうの者は追って来ておらなかった。


 隠し通路を出ると、そこには女神様が待っており、やはり三助を抱き上げ、頬ずりする。


 俺はといえば、急ぎ隠し通路を閉ざそうとするが、女神様から待つように言われる。


「何か事情があるのかもしれない。三助から話を聞いてからでも遅くないわ」


 三助を捕らえるほどのまっとうな理由がそうそうあるとは想えないけど。その心中の想いは口にせず、とりあえず、彼女の提案は受け入れた。そう。ダンジョン連合の志に照らせば、彼女の方が正しい。


 三助によれば、向こうのダンジョンには召喚師がおらなかったと。そのために、彼が使者であることがマスターには伝わらず、良からぬ侵入者と間違われ、そのまま軟禁されるはめになったと。


「留守にしていたのかな?」


「召喚師がダンジョンを離れることは滅多にないわ。もしかすると。亡くなったのかもしれない」


「えっ。女神さまも死ぬの?」


「そうよ。だって、私も生き物なんですから。当たり前でしょう」


「復活は?」


「しないわ」


 俺は衝撃を受けていた。このあと、どうなるか、正直、分かっている訳ではないけれど。何となく女神様とはこのままずっと一緒にやって行けるもの。そう想い込んでおったから。

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