第34話 地走り2
地走りは吸い寄せられるように、そこに至った。実はこの手前に別のダンジョンがあったのだが、それは通り越して来た。このダンジョンから異臭がしたのだ。何かがあるのかと想ったのだ。己の始源につながる何かが。
始源などというものを求めるのには訳がある。彼自身が同族と接して感じることは、この者たちは己より惑乱した状態にあると、はたまた、己より退廃しておると。地走り同士は言語によるコミュニケーションはできぬ。ただ、互いに心のうちにあるものを、映像としてやりとりできる。それを覗いて、先のように感じずにはおれぬのだ。
そこから、彼は次の如くの推論を得るに至った。己の種は退化が進んでおり、己自身は先祖返り――恐らくは召喚により――したのではないかと。とすれば、先祖は己より優れていようし、地走りの最初の最初――始源の存在こそ完璧な存在なのではないかと。
彼はこのことを誰かに相談したかったが。例えば、召喚師様、道夫、三助と。ただ、彼からは話すことが奪われておった。このように考えるのにも理由がある。彼は他の者の言葉を理解はできるのだ。ただ、しゃべることを奪われることにより、この退落した状態に閉じ込められておるのではないか? そう考えるに至っておった。
ただ、ここへやって来てみて、この臭いというもの――嗅覚データ――は地走りの種族には取り扱えぬもの――彼ばかりでなく、始源の存在であっても取り扱えぬもの――常にあいまいさに留まるものであることが分かった。
現在、退落の中にあるゆえ十分とはいえぬとしても、取り扱えるもの――横(X)軸と縦(Y)軸の格子模様が織り成す視覚データが常に明晰であるのに比べて。
この前のダンジョン同様、三助のみが入った。1日、2日は特に気にも留めなかった。しかし、3日、4日もすると、もしかしてと想い始め、5日、6日を経ても、戻って来ないとなると、己は自らの興味に捉われるあまり、誤ったダンジョンに導いたのではないか? その想いが強くなり、まんじりともせぬまま、7日めの朝を迎えた。この日までに上がって来なければ、一端、帰るように、三助に言われておった。なので、地走りは急ぎ道夫の下へ戻った。
(注:本話の前半部分はあえて謎めかして書いています。古いSFに馴染みのある方は違和感は少ないかとも想いますが。そうしたものに慣れていない方は、「何だ。これは。分からんぞ」という感想を抱くかもしれません。そうであっても、あまり気にせず、次話以降も読み続けていただければと想います。地走りの謎も徐々に明らかになって行く予定ですので)