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第30話 進み行く協力3

 ここ最近の鎌次郎は暇をもてあましておった。そもそも懸念していたことであったが、鎌次郎の存在はプレイヤー間に知れ渡ってしまったようで、初手から不動明王を採用することが多くなった。こうなったら鎌次郎は出番無しである。


 とはいえ、不動明王がいなければ、未だに第1の壁として敵をしりぞけるを得る。なので、向こうのダンジョンに行くなどありえなかったはずだが。そんな鎌次郎にも、隠し通路が通じたことで、大きな変化が生じることとなった。


 隠し通路の入り口付近を、どうも最初はやたらとうろうろしてみせていたようだが、それでは己の姿が消えてしまうことに気付いたようで、ひたすらにじっとするという戦法に切り替えて、ただただ行きたいとアピールして見せた。なので、仕方なく、もしこちらのダンジョンが攻められたら、至急戻るようにと言い含めて、許した。他の多くのモンスターと同じで、鎌次郎はいかなる言葉も話せぬが、こちらの言っていることは理解できる。


 すると喜び勇んで――との姿は見ることができず――何せ、次の瞬間には姿を消していたから。そして、そのまま、ほとんどの時間を向こうで過ごすこととなった。向こうのダンジョンに鎌次郎がいるなんて考えるプレイヤーがおるはずもなく、まさに大活躍となったようである。


 一応、呼びに行く係は、『ポチ』である。未だ何のアビリティも獲得しておらず、やはりただのシバ犬ではないかとの疑惑を俺は深くしている。これは呼び役に選んだ理由でもあるのだが、鼻が実に利くのだ。見えぬ鎌次郎を捜すのに、この者ほどの適任はいない。




 そして、向こうからも更にモンスターが3体、来た。


「我らがマスターは、借りてばかりでは申し訳ないとのことで、おいどんたちを送り出しました」


 話によれば、鎌次郎ばかりか、岩兵衛いわべえ生暖簾なまのれんも彼ら3体――そう、この者たちはタンク職であった――の仕事を奪うほどの活躍振りであるという。ただ、向こうのダンジョンが攻略を受ければ、戻らせていただきます、とのことであった。


 俺は無論のこと、と応じた。


 3体とも体形は、相撲取りと言っても通じるアンコ型で、顔はおむすび。名前もそのままに『おむすびシャケ』、『おむすびノリ』、『おむすびヒジキ』。シャケやノリという名前に理由があるの?と尋ねると、そろって恥ずかし気に頭をかいてみせる。ここにも犠牲者が。しかし、後2者はありそうな名前になっているところが恐ろしい。


 3体の狙いは不動明王であった。上級タンクと対戦して地力を上げたいとのこと。「出げいこでごわす」「そうでごわす」「ごわすでごわす」と口をそろえる。いや、そろってないぞ。それに、そもそも目的が変だぞ?


 実際の不動明王戦にては、まさに相撲のぶつかり稽古そのままであった。最初の1体が突撃するも、弾き飛ばされる。次の1体が「もう一番」と言ってぶちかます。また、弾き飛ばされる。すると、次の1体が。とこれを延々と繰り返すのである。さしもの不動明王も対応せざるを得ず、結果としてはその動きを封じることとなった。


 なので、ようやくシャクトリンゴはお役御免となった。そう、毎度毎度のオトリ役から解放される運びとなったのである。おかげで、俺もこれで少しは肩の荷が降りたよ。それしか方法が無かったとはいえ、俺が勝つにしろ負けるにしろ、そのかたわらでシャクトリンゴが引きちぎられるのを見なくて良くなったのだから。


「ご苦労様、シャクトリンゴ」


 あるとき、ふと眼が合ったシャクトリンゴに俺は語りかけた。すると、やはりシャクトリンゴは高速尺取り運動をこなしつつの急接近。抱きしめろ、抱いてたたえてやれ。俺は震えながらも、何とか、抱くを得た。虫と想わなければ、平気なはず。ヘイキなはず。ヘイキな・・・。そう、心に念じ続けて、どうやら、俺はそのまま気絶したらしい。

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