第28話 進み行く協力
俺は三助の姿を心に念じつつ、わくわくする気持ちで待つ。かたわらの鉄チンも同じ気持ちであろう。そもそも、これは彼女の提案によるものだった。
本当にそんなことが可能なのか? いや、無理だろう。最初にその案を聞いたときは、正直、そう想った。
その効果は絶大です、として彼女は強くうながす。もちろん、俺もそこに疑問を抱いておる訳ではない。まあ、彼女自身、行き来にはずいぶん苦労したようで、より切実に想うところはあるのかもしれぬが。
問題はできるのか? ということだった。こちらのダンジョンと向こうのダンジョンを俺の隠し通路でつなぐなんて。
最初の頃、隠し通路は、ダンジョンの構造を思い描き、そのうちの2部屋を思念することにより、設えておった。ただ、ひょんなことから――まさに迷子捜しをしているときであった――モンスターの姿を思念すれば、そのモンスターのおるところと自分が今いるところを隠し通路で結べることが分かったのだった。
今回はあちらのダンジョンにおる三助にその役回りを演じてもらう訳である。やがて壁が半透明となり、その向こうの通路が半ば暗闇に沈んでおった。ちなみに、半透明に見えるのは己だけで、他の者には以前とまったく同じ壁にみえるとのこと。足を踏み入れると、その近くの床、天井、側壁が淡く光る。これもいつもの隠し通路と同じであった。本当につながったのか。
側らの鉄ちんも俺の動きを見てであろう、半歩遅れてあとに続く。
しばし、進む。否、やはり進むことはできなかった。ここでも見えぬ縄によるくびきはほどけておらぬらしい。俺がいくら足を動かしても、全く前進できておらぬ。その様を見ておった鉄チンに「この先を確認して来てくれ」と頼む。
「分かった」との答え。
光の帯は二つに分かれ、一方は彼女とともに進んで行き、他方は俺とともに残った。
俺はとりあえずここで待つことにした。己のダンジョンの中の部屋を結ぶ際、隠し通路の距離は実際のそれより短かった。今回もそうである可能性は高い。ならば、鉄チンはすぐにも戻って来るはず。
そう想い、待つこと、しばし――否、やはりしばしの間も待つ必要はなかった。そして、そこには見慣れた姿が。とはいえ、最近はご無沙汰であった。
「三助。お前か」
うれしさのあまり俺の声はひっくり返っておった。俺は手のみを伸ばす。足はどうあっても、これ以上、進めぬのだ。三助の来る速度が心持ち上がった気がする。
「もう少しだ。三助」
小走りの者がかたわらを駆け抜け、三助を拾い上げる。女神様であった。その胸に抱き上げ、頬ずりする。その頬を涙が一筋二筋伝う。
(良かったじゃねえか。三助。お前、女神様に愛されていてよう。いろいろ、うらやましいぜ)
「どうも女神様のが移っちまった」
俺は己の涙の照れ隠しのみを言葉に出していた。