表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/130

第27話 ミーたん合唱団

「しかし、あんな風になるとは想わなかったな。まるで、ミーたん合唱団だ」


 俺は鉄チン――三助に代わって、今や側らにおるのが最も多いモンスターである――に話しかけた。


 その初登場のあとを少し語るとしよう。まさに、その際の強烈なインパクトのゆえに『くさ夫』というありがたくない呼び名――俺にとってもだ――を女神様よりたまわる。俺が「別のダンジョンのモンスターなのに、俺の名の一部を付けるのはまずかろう」と言うと、彼女はしぶしぶ『くさチン』に変えた。ただ、そうなると、より困惑したのは鉄チンで、「蓮華様。私は女性なのです。その呼び名は『臭いチン〇』を連想させます。私にはとても耐えきれませぬ」と涙ながらに訴え、何とか旧名を取り戻した。


 じゃあ、女なのに鉄チンはいいのかとも想うが、それを聞くはやはり野暮であろうと、そっとしてやることにした。どこも召喚師様のネーミング・センスには苦労させられているようだ。


 ちなみに、この鉄チン、スライムの言葉ばかりか人間の言葉も喋れる。一応、最初はスライムの言葉のみだったらしいから、もしかしたら、俺も三助と喋れるようになるのか? 楽しみでしかない。


 三助の色が増えるアビリティより、そっちの方がいいなと言うと、鉄ちんはいかにも悔しそうに、「あれはあれでうらやましいのですよ。あでやかですし。少し嫉妬してしまいます」との返事。鉄ちんはび色だからなとは、やはり言うを控えた。


 ところでミーたん合唱団である。今、彼女の前の床には、4体のモンスターが並んでおった。といっても、彼女は天井近くにおるので、距離は離れておるのだが。鉄チンが連れて来た向こうのモンスターである。彼らを貸すから、タンクを貸してくれということであった。なので、岩兵衛いわべえ生暖簾なまのれんを貸した。


 生暖簾はこちらのダンジョンではこれまでほぼほぼ活躍の機会が無かったのだが、前の世でのプレイヤーとしての経験から、対武闘家(や忍者など)の専門タンクとは知っておった。俺の推しのカンザシ振り回しキャラ『乱れ――お銀』――おしろいにおちょぼ口のべにが際立つ美麗なお姉さんキャラであり、着物の裾が良い具合に乱れ、内ふとももがあらわになると共に、敵は血だるまとなっておるという強力技『お銀乱舞』を有しているのだが。この生暖簾に封じられること、度々であった。


 話を向こうからやって来た4体に戻そう。これは最初、まったく予想しなかったことであるが、まるでミーたんに弟子入りした如くとなっておった。確かにミーたんは対不動明王戦においては、とても重要な役割――というより唯一の勝ち筋と言って良い存在であり、こちらのダンジョンに来て、その活躍振りを目の当たりにしたこの者たちがこうなるのも、むしろ、当然かもしれぬ。


 そう、キラキラした目で見上げ、ミーたんに合わせ歌う。あるいは、魔法唱句の練習と言うべきか? 鉄チンによれば、この者たちはどうも魔法使いっぽいとのこと。ずいぶんあいまいな言い方とは想うも、確かに魔法を披露してくれたのは1体――厳密には1組――のみで、他の3体は暗中模索という感じであった。


 その一組についてまず語ろう。ミーたんのガラガラ声が低音をなし、それに1オクターブ上の綺麗な高音で合わせる双子の少女『瞑眠めいみん』。どちらかが瞑ちゃんで、どちらかが眠ちゃんらしいが、余りにそっくりで区別がつかない。歌声もまた一人の少女としか想えぬほど似ている。その名の通り、睡眠作用のある魔法を使う――ただ、現状、せいぜい眠気を誘うレベルである。俺の場合もあくびが出たくらいであった。なので、全4体とも即戦力にはほど遠く、これからの向上に期待ということだろう。


 そう想っておったのだが、そのなかの一体、ピヨピヨと鳴くヒヨコの如き者――こいつも早速、女神様から『ピヨ丸』との呼び名をたまわり――こいつの場合は、これでいいとなっておった。内心では、ふざけてんじゃねえぞ、と怒っているのかしれないが。いずれにしろ、ピヨピヨとしか鳴かぬし、声も姿もかわいいしと、どう転んでも『ピヨ丸』だ。


 ただ、いつのまにか、ピヨという鳴き声とともに炎を吐けるようになっておった。なぜ、それに気付いたのかというと、ピヨ丸が鉄チンの上に乗って、炎を吐きかけておったからである。


 俺の視線に気付いた鉄チン曰く、「私はとても冷え性なのよ。マスターは男性だから、私のこの悩み。分からないわよね」


 いや、そうじゃなくて、鉄の体だからだろうと想うも、言わなかった。やはり、それは野暮というものだろうから。ところで、ピヨ丸の炎だが、恐らくもともと持っていたアビリティなのだろうが、合唱練習のおかげで炎を吐くコツをつかんだというところだろう。


 俺はまずは情報交換から始めようと想っておった。向こう側の提案――モンスターの貸し借りまでは正直考えていなかった。何せ、協力してくれるのか、それ自体、とても不安だったのだから。一か八かの気持ちで三助を発したのだ。


 しかし、ピヨ丸の進化を見ると、情報交換などはまさに迂遠なやり方に他ならぬとよく分かる。新たなダンジョンで新たなモンスターと出会う。そこにこそ能力を見出すチャンスがある。また、これまで俺は、俺自身が見出す必要があると気負っておったが。こたびのように、モンスター同士で導くことができれば、そっちの方が良いに決まっている。何せ、俺は一人であるが、モンスターはたくさんいる。


 更に俺が嬉しかったのは、ミーたんがこのダンジョンにて明確な役回り――戦闘中ではなく普段のときの――を得て、楽しげなところだった。これまで、ほぼほぼ孤立しておった彼女――あくまで、自ら望んでではあったが――こうして弟子ができてみるとなるほどと想うところはあった。ミーたんはその姿からは想像しにくいが、その性格は姉御あねごキャラだったということだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ