第25話 三助の帰還
三助とともに地上へ出た鉄チン。地走りの頭の上――先に乗っておる三助の隣に、すまし顔で座ろうとして、振り落とされる。ばかりか、地走りは強烈な怒気を発しておる。
「悪い。悪い。そう怒んないで。挨拶代わりの重い冗談よ」そう、なだめつつ「こんなこともあろうかと、ちゃんと準備して来てますって」
と言うや、体の中から丈夫そうな縄を取り出す。そうして、それの一方を地走りの体に巻き付けるように言うと、自分はくるりとまん丸な球形へと変わる。しかも、真ん中に穴があり、そこに器用に縄を通している。
「どう。私の変身振り。綺麗? それとも格好いい? 私は前者と言ってくれた方が嬉しくてよ」
結局、地走りは、頭には三助、そして縄の方は六対ある足のうち、1番前と2番目の間の胴体に巻き付け、走り出す。
三助は後方を振り返りつぶやく。
「なるほど。さすがに往路に比べればスピードは遅いけど、ころころ転がっているおかげで、地走り君もそこまで負担ではなさそうだ」
地走りは調子よくスピードを上げて坂を登ってゆく。ところが、勾配が下りに転ずると、三助が想わず叫ぶ事態に陥る。
「アレー。そんなに急いでどこに行くんです」
今や鉄チンが先頭にて転がりに転がり、上の三助ともども地走りを引きずって行く。やがて、勾配が上りに転じ、それでようやっと止まる。
「私は止まらない女なのです」
登ってのち、また勾配が変わり、「アレー」。そして登ってはアレー。それをいくたびも繰り返す。
それを見ていたかの者。
「ずいぶんと面白き遊びをしておるな。我が主たちは、この世界を造るにおいて、本来は存在せぬ重力を作用せしめた。それを存分に用いての、何とも高度な戯れ。ならば、この我も是非にも加わらねばなるまい。あれらは知っておるかのう。あらゆるものを呑み込むという暗黒穴の存在を。そして我が穴もまたそれを模して設えられしを」
かの者は先回りして待ち構える。この前と同じく、頭をダンジョンに突っ込んだ姿勢にて。ただ、今回、その意識は前ではなく後ろにある。
やがて鈍い衝撃を体に受け、待ってましたと体を起こす。そして己の穴の働きぶりを見て満足する。更には、驚きたまげる三助と地走りに親指を立てた右腕を突き出す。彼らは今や己の穴と縄でつながっておる。
そして、物音を聞きつけたか、召喚師の蓮華とマスターの道夫が出て来る。
「おお。戻って来たか。三助。ところで、向こうのダンジョンの使者は連れて来れたのか?」
三助は困り顔で、縄の先を見やる。
すると、かの者は今度は道夫たちに親指を立ててのポーズを一度決めてから、体に力を込めてひり出す。「我が穴は呑み込むばかりではない。すべてを吐き出す白穴とも化す優れものなり」などとのたまいながら。
さて、そのひり出された鉄チン。何となく状況は察せたようで、蓮華と道夫の前にひざまずく。やはり足は無いけど、敬意はある。
それなのに蓮華は一言、
「くさいわ」
そこで、巨大白猫は三度、親指を突き立てた。どんなもんだい、と言わんばかりに。