第23話 三助の謁見
本話は三助視点にてお送りする。
地走り君がいやがったので、おいら(三助)は一人でダンジョンに入った。そして、今、その地下5層にて、ここのマスターと召喚師の前にひざまずく。といって、足がある訳ではないので、敬意をもってその御前に控えた、そう言いたいのだ。
2人はおいらのマスター『道夫』が座るのとそっくりな玉座――連ねたシャレコウベを足とする――に並んで座す。今し方、『道夫』の提案を伝え、それを召喚師が訳して、マスターに伝えたところであった。
「こちらの使者を送れか。なるほどね」
マスターの体は無数のきらめく小金属片でできておった。生命活動のゆえか、風もないのに揺れ、その光と影は千変万化する。そしてそれが外見だけなのか、中身もそれで埋め尽くされているのか、分からなかった。かなり近くから見てはおるのだが。
「応じるの?」
召喚師が尋ねる。おいらの召喚師様に比べると、体の凹凸がはっきりしており、更にはその出ているところを際立たせる黒衣に身を包んでおった。髪はその服とおそろいの漆黒であり、艶を失うことなく、肩へと流れ落ちている。でも、美しさではおいらの召喚師様にはかなわねえ。聞かれた訳でもないのにそう想う。何より、二人は体を密着させておれば、仲がいいのだろうか、と想う。と同時に、負けるな、『道夫』とも。
「面白いと想わないか。そうだな。そなたには分からぬか。何にしろ、外へ出られるからな。俺は知ってのとおり、ここにがんじがらめ」
「この『運ゲー野郎』って、ダンジョンの名前は知ってるの?」
「いや、聞いたことないね」
「ねえ。サンスケ君と言ったかしら。あなたのところの召喚師の生を教えてくれない?」
「蓮華様です」
「あら。聞いたことあるわ。白銀の髪の子じゃない。なので、白蓮ちゃんとも呼ばれていたわ」
急な質問の連続で三助はどきどきする。
「知っているのか?」
「一学年、下にいたわ。でも、すごいわね。もう指名ダンジョンになれたなんて」
「それをいえば、俺らも似たようなものだろう」
「あなたは特別。でも、あなたのアビリティに引けを取らないものをきっと持っているのよ。そうでなければ、こんなに短期間に。そうよね」
「そうです」と答えた。そうあって欲しかったからだ。
「あるいは、召喚師の方が君並みに優れているかだな」
「何よ。使者との謁見の際に誘う気。逢瀬にはまだ早いわ。ここはダンジョン内だから、いつでも夜だといえば、それまでだけど」
言葉とは裏腹に、女はマスターに体をより一層しなだれさせ、その体の突き出た部分は柔らかくつぶれた。三助は恥ずかしくなり、目をそらす。
「まじめに言ってんだよ。どうだった? その召喚師の実力は? そなたの見立てを聞かせてくれ」
「そんなの分からないわ。私自身がペーペーの見習いだったのだから。ただ、将来、きっと美人になる。それだけは分かったわ。それはいいとして、誰を送るの?」
「向こうもスライムを送って来たんだから、こっちもスライムでいいだろう」
それまで、主の足下で身じろぎもしなかったものがブルッと体を震わせた。三助は、そのとき、初めてその存在を意識した。ずりずりと近付いて来たそれは、よろしくとばかり、体を預けて来た。スライム流のあいさつだ。しっかり受け止める気持ちとは裏腹に、想わずうめいておった。「つぶれる」と。
「これ。鉄っちん。あなたは重いんだから、少しは考えなさいといつも言ってるでしょう」
それを聞きつつも、道夫、やったぜ、何とか、使者の役目を果たしたぜ、そう想う三助であった。