第22話 シャクトリンゴ大作戦2
シャクトリンゴ大作戦そのものは単純である。ただ、その裏には、深い人間観察の眼――つまり己がかつてプレイヤーと同じ人間であったゆえに得た見識が活かされている。そう。虫が苦手、大の苦手という人はいるのである。あの地走り――その何十分の一かのサイズに過ぎないゴキブリが走り回るのさえ、恐れおののき逃げ回る。
ならば、かのシャクトリンゴが高速尺取り運動をこなしつつ接近を試みるならば、恐慌に陥ること必須である。そして、プレイヤーは不動明王に命じるはずである。シャクトリンゴの接近をはばめと。その隙を俺が突く。これで全て。これで完璧となれば良いが。
そう想いつつ、指名ダンジョン戦の3組目。ついに敵は再戦を挑んで来た。その最前列に立つはやはり不動明王。仏説においては、大日如来の化身とされる。片目は見開き片目は半眼、そして一方の牙を上、他方を外に突き出す異形の相はその青黒き肌の色とともに仏説のままであるが。その巨躯にまとうが、炎をかたどったごとくの赤備えの鎧兜というのは、やはりゲームゆえか。相変わらずかっこええのう、などとみとれている場合ではない。
シャクトリンゴが突撃。こちらの狙い違わず、敵はまんまと不動明王にシャクトリンゴを抑えろと命じる。不動明王がかがんで、シャクトリンゴをわしづかみにする。その肩越しに俺は跳躍を試みる。プレイヤーの双眼が大きく見開かれる。それだけ間合いを詰めるを得た訳だが、右の拳をたたき込む前に、下から強烈なカチ上げを食らう。この衝撃。あのとき以来だ。俺が死んだとき。その自動車並み。シャクトリンゴと俺の屍が転がることになった。
次になされた再戦。俺は少し作戦を変えた。これは既に伝えてあれば、シャクトリンゴはその指示通りに動く――つまり、一端、近づき、急に右にそれる。ために、それを追う不動明王は俺の進路から完全にいなくなる。シャクトリンゴ。今度こそ、お前の死は無駄にしねえぞ。その想いを抱き、ここぞとばかりに突っ込む俺。
しかし、短い唱句が聞こえた後、無数のするどきものが俺の体を貫く。見ると光の矢であった。もう一体、おったか。確かに、プレイヤーの後ろには魔法使い特有の無地の長衣に身を包む者が。そして俺は死んだ。ミーたんがその唱句をあべこべに唱えるのを聞きながら