第35話 3つのアビリティ3
(視点はタナトスです)
「見っけ」
ヒュプノスの高らかな宣告とともに、第6戦『隠れんぼ』での俺たちの勝利は確定した。
これより前のこと。第5戦『双六』が終わるとともにその盤面は消失し、ダンジョンが現れ出た。交代で鬼をなし、規定時間内にいずれか1体を見つけられるかどうかを争った。
ブロッコリー君は第5戦のあとに更に1体増え計5体、対して、こちらは2体のまま、ゆえに敵の方が見つかりやすいというのは無論あったが。決定的な勝因は、旧第3が呼んだマスターによる『隠し通路』であった。隠し通路内に隠れるならば、ダンジョン側からは見えぬ。そのマスターは俺たちに敵意を抱く危ない奴だったが、それを察した旧第3が急ぎ戻したようだった。そいつのおかげで勝てた以上――しかも楽勝であった――あまり悪く言う気にもなれぬ。
離れたところにおる女王に話しかける。この遠話というものにも慣れて来た。
「あんたのアビリティは最後のお楽しみとして、あいつのはどうなんだい。なんか、やりたいことはなんでもできると想えてしまうんだが」
「一つは召喚じゃな。あとは分からぬ」
「おいおい。勘弁してくれよ。それくらいは俺にも分かる」
「ふふ。冗談じゃよ、と言いたいところだが、実のところ分からぬところもある。ゆえに、どうしても推量混じりとなるが、それでも良いか?」
「ああ。それで頼むよ。決してくつがえらぬ真理が知りたい訳じゃねえ」
「そなたはまさにあの者がなんでもできるようだと言った。それが手がかりになる。他方で我を見れば明らかな通り、アビリティはあくまで3つ。ならば、奴はどうしたのか?」
「もったい付けるなよ」
「そう言うな。多少は気分良く話させてくれ」
「分かったよ。邪魔しねえ。だから、続けてくれ」
「2番目の奴のアビリティは『取引』。これはまさに取引相手たるダンジョン蓋が証言しておったから、間違いない」
「そう言われれば、そうだったような。それで、何の取引をしたんだ?」
「現状は7戦勝てば良いが、そもそもは無限に近い回数を勝たねばならなかった」
「本当か? とすると、取引相手のダンジョン蓋が阿呆だから、何でもできる風に見えているということか」
「そうではなかろう。そして、3番目のアビリティ。これが最も重要であり、同時に我にも分からぬところが多い」ここで女王は想いっきりタメを作る。「感心じゃな。チャチャを入れぬとは」
ここで再び女王が黙る。どうやら、俺が何も言う気がないと悟ったようで、言葉を続ける。どうも文句を言いつつも、軽口のたたき合いは好きらしい。
「奴の3番目のアビリティ。それは『全体俯瞰』とでも呼びうるもの」
「なんか、また小難しい名前を付けてくれたな。おっと、これはチャチャじゃねえぜ。合いの手さ」
「そう受け取っておこう。要は、あらかじめ全体が見えるということよ。近い言葉に『予知』があるにはあるが」
「その方が分かりやすい。それで行こうぜ」
「いや、そういう訳にもいかぬ。『予知』と呼びうるほどには、すべてが見えておる訳ではあるまい。ただな。そう。例を示そうか。その方が分かりやすかろう。奴が選んだアビリティ。それは我が選んだアビリティを知っての上であろう。そればかりではない。奴は我の参戦までも知っておるのだ。我は奴の情報を何も得ておらぬのにな」
「なんか、単にあんたが下っ端に見えて来たぜ。おっと、いけねえ、聞かなかったことにしれくれ」
「『予知』を否定するのは、もう一つの明確な理由ゆえでもある。それが成立するには、既に勝負が決まっておる必要がある」
「なるほど。賢いじゃねえか」
「誉め言葉として素直に受け取っておこう」
想わぬ返しに拍子抜けするタナトスであった。女王は続ける。
「じゃあ、なんで、奴がなんでもできる如くに見えるのかというと、それは『取引』と『全体俯瞰』更に『召喚』の3つをうまく組み合わせて――相乗効果を狙ってな――ことをなさんとしておるから、というのが我の推量よ。ほれ、奴がコクコクしておる」
「あいつはコクコクマンだから信じられねえ」
「これ。その名で呼ぶなと言うておろう。想わぬか? どうして旧第3が呼べる者のアビリティ。それがうまく浮かせる戦いばかりなのだろうと」
「取引したゆえと」
「そういうことじゃ。しかも、その取引の際、この戦いの全体像が見えておったら、どうだ。敵も我らも、こやつの手のひらの上で踊っておるようなものよ」




