第34話 お遊戯4
(視点は道夫です)
運ゲー野郎のダンジョン・マスターの間にてのこと。ふと気づくと、枕元に何者かが立つ。見上げると、運営使者であった。阿修羅王や他のダンジョン・マスターから連絡を受けておったので、お化けが出たと震えあがることはなかった。なぜか、頭をコクコクとしている。生前――この言い方が正しいのか不明だが――の来訪時に比べると、ずいぶんと静かであった。
いつもなら、かたわらで寝ておる三助は、『箱入り娘』に赴いており、いない。代わりにそのダンジョンからミーたんの下に修行に来ているイソギンチャクンはすやすやと寝ているようだ。イソギンチャクに似ているのでこの名にした。ただ、名付けたのは俺だ。女神様はイソギンチャクを知らなかったのだ。
その師匠のミーたんは起きているようで、俺が扉の方に向かうのを、顔を動かして追っていることに気付く。といって、その性格のゆえか、通常の行いとみなしたゆえか、騒ぎ立てることもなかった。
扉を通ると、控えの間に出る。そこに、見慣れてはおるが、あるはずのないものが浮かんでおった。外周が円形のダンジョンの蓋であった。
「ブッブー。ダンジョン・ブタだよ。でも、豚にはならないんだ。以前、そのせいで、死んでしまったからね」
蓋の表面に口が現れ、いきなり喋り出した。それだけでも驚きなのに、徐々に半透明になる。
運営使者が蓋に途中まで体を入れて、振り返って手招きする。それから向こうへ行った彼のあとを追って、俺も続く。その赴いた先も見覚えがあった。明らかにダンジョンの内である。一瞬、あれっ、まだ運ゲー野郎にいるのかと想ったくらいだ。聞いておったところの遊園地とか闘技場ではまったくない。
そして、運営使者がまた身振り手振りで何かを伝えて来る。話せないのですかと問うと、コクコクとしてみせる。どうやら、うなずいておるらしい。何を伝えたいのか分かりかねるが、呼ばれたからには、俺特有のもの、とすれば、アビリティ絡みのことであろう。俺は右腕を硬化させる。すると、相手は首を横に振る。
硬化でないとすると、隠し通路から。確かに、ここはダンジョン内のようだから、できないことはないのだが。しかし、どことどこをつなぐのかという問題がある。とはいえ、相手の身振り手振りからでは分かりかねる。なので、とりあえず、今いるところと少しばかり離れたところをつなぐ。違ったら、また首を振って教えてくれるだろうと期待して。
運営使者は首を振ることもなく、俺を隠し通路内にうながす。俺のみが入って、少しばかり奥に行く。しばらくすると、運営使者と共に見覚えのある2体が入って来る。闘争心は無い方なのだが、想わず身構える。阿修羅王から運営使者に協力してやってくれと言われておったが、こいつらは別だろう。
俺の方の緊張を察してか、2体の方の1体、上背のある黒翼の方は止まる。ただ白翼の小さい方は無頓着に近づいて来る。あのときは、上書きがどうとか言っておった。ここでもやろうというのか。
好奇心丸出しでこちらを見る顔つきはあどけなく、体つきは俺より一回り小さい。
相手が手を伸ばす。もし、その手が頭の方に向かっておれば、あるいは、相手が威圧感漂う黒翼の者であれば、俺は右腕を硬化させ殴りかかっていたかもしれない。
ただ、相手は俺の腹をツンツンとして、「こしょばゆい?」と尋ねて来るのみ。俺があとずさって距離を取るのと、黒翼の者が白翼の者を引っ張り俺から遠ざけるのはほぼ同時。現在のこいつらがどうあれ、過去の一事が消えてなくなる訳ではない。
そして次の瞬間、俺は自らの体が半透明化して行くのに気付いた。運営使者の方を見ると、手を上げている。ただ、何の意かは分かりかねた。
控えの間に戻った俺は、マスターの間に入る。女神様が自室から出ている。待っていてくれたようだ。もしかすると、ミーたんが呼んでくれたのかもしれぬ。
「運営使者に呼ばれ、どこかのダンジョンで隠し通路を作って来た」
「そう。心配したわ」
「俺は大丈夫だって。少しでも隠し通路が役に立つことを願うばかりだよ」
あの2体については、あえて告げなかった。そもそも女神様はあの現場にはおらず、それに無用の不安を与えたくはなかったから。




