第21話 三助と地走り
結局、初戦の相手は再戦を挑んで来なかった。なので、我らの勝ち確定となった。恐らく不動明王を持っていなかったのだろう。
勝てば、①戦闘に参加しておったモンスターのうち1体の能力向上もしくはアビリティの獲得、更には②レベル0のモンスターが1体レベル1となり、次回から戦闘に参加できる。
負ければ③俺の能力向上もしくは④アビリティ獲得。③は攻撃力、もしくは防御力が1%向上とゴミレベルであり、④はこれまでの敗戦でたった1度『硬化』を得たきりであり、その確率はウルトラ・レアとさえ想える。
なので勝った方が良いのは明らかである。
ただ、ダンジョン名『運ゲー野郎』とともに鎌次郎の存在が広く知れ渡ってしまえば、今以上に最悪である。そもそも不動明王を持っておらぬプレイヤーは挑んで来ぬであろうし、持っているプレイヤーは初戦から採用しよう。そうなれば、今回のように勝ちを拾うことは、ほぼなくなろう。そして、攻略サイトやSNSがある以上、そこにどれほど時間的余裕があるのか、心もとない。それまでに、できるだけ勝ち、陣容を増強する必要があった。と同時にその最悪のときに備えるために送ったのが、三助たちだったのだが。
ついつい、女神様との会話も彼らに関するものとなる。食べ物そのものは、自分で取りに行くようになったので、用はないはずだが、ときどき様子を見に来てくれる。それだけでも、とても嬉しい。しかも、前の世の女子とは距離感が違うのか、かなり近くまで寄ってきてくれる。これもとても嬉しい。
少し手を伸ばせば触れられるところにある、その透き通るような肌――そもそも白いのにほぼほぼ陽に当たらぬからだろう――にどっきりする。あの変な夢以来、目も満足に合わせることのできない俺が、触れるなんてできるはずもないのだが。
「三助と地走りはもう他所のダンジョンにたどり着けただろうか?」
「大丈夫じゃない。ゴキ夫はもともと現住だし」
女神様はやはりかたくなで『地走り』との二つ名になびく様子はなかった。それより、言われたことが気になった。
「現住って、どういうこと?」
「そもそも、この世界にいるってこと。他のモンスターは多くが別世界からの召喚だけど、ゴキ夫は違うわ。ただ、一度、死んではいるけどね。そこだけは同じよ。知っていると想っていたけど。この地に馴れているから、選んだのだろうと」
「知らない。ただ、足が速いし、それに三助を乗せるのに丁度いい大きさだから。それじゃあ、道中、そうそう困ることはなさそうだね。後は、襲われたら、というところが心配なだけかな?」
「それは、あなたが選んだ方の理由。あの足があれば、多分、逃げ切れるわよ」
「となると、三助次第だな。まずは行った先のダンジョン・マスターと召喚師が会ってくれるかどうかだな。うまく交渉して、そのダンジョンのモンスターを連れて来てくれれば良いが」
「マスターはどうか知らないけど、スライムを嫌いな召喚師はいないわ。何せ、ときに『始まりの』の語をその名に冠される如く、どの召喚師にとっても最初に召喚し育てるモンスターがスライムなのよ。もしかして、これも知らなかった?」
「知らないよ。ただ、なら、期待できそうだね」
「どうかしら? あとは、マスター次第ね」
その可愛らしく小首をかしげるさまに俺は見惚れながら、『始まりの三助』なんて呼ぶと、あいつ喜ぶかなと、少し遠くにいる相棒に想いを馳せた。