第25話 ダンジョン『箱入り娘』2
マスターはここで目標を定める。あの虚空で果たし得なかったこと。飾りヒモを引く。すると己を三助が熱い目で見ておるのに気付く。おお。そなたは分かってくれるか。いや、単にヒモを引くのが好き同士というだけじゃねえか、との再びの空耳突っ込みはさて置き。
2体にとっては、まさに以心伝心。それで心が上がれば、それに応じて箱車の速度も上がる。猛スピードで前回と同じルートを経て、マスターの間に。マスターは伸びあがり更には手を伸ばして三助を抱え上げる。三助は三助でできるだけ手を伸ばすが。惜しくも、いや、全然、届かない。
これは2段ロケットの如くが必要。つまり、第1段でマスターが飛び上がり、次に三助が飛ぶ。ただ、どうにもタイミングが難しい。箱列車が猛スピードということもあり、どうしても遅れてしまうのだ。
タイミングを徐々に早めて行き、10数回のチャレンジのあと、マスターの間に入る前に2段ロケットを始めなければならないと分かる。そうして、更に早めて行き、ついにはタイミングが合うが、ただ、まだ足りない。
そこで三助。この十日間の試行錯誤を想い出す。説明しようとするが、言葉が通じないことを想い出し、平べったくなってみせる。
そうして、試みた結果、三助はすさまじき逆風を揚力に変え、より高みへと至る。ただ、勢いあまって縦回転しつつであった。なので高さは十分だが、飾りヒモをうまく引けるかの問題は残る。ただ、ちゃんとヒモが引けるように変形自在の手を伸ばした三助。ついには飾りヒモを引く。勢いのまま更に回転してマスターと目が合うところで互いにガッツポーズを決める。お互いまるでストップモーションのただ中にいるようにときがゆっくりと感じられる。死に際、こうなるとは良く聞くと両者が想ったか否かは定かならぬが。
ただ、そんな中、マスターは「おおい」と叫び、そうして、更に半回転した三助がウキャと悲鳴を上げる。天井が崩れ出しておったのだ。
その直後、2体は箱車とともに最初の間に投げ出されておった。命拾いをしたなとの安堵の中、互いの安全を確認し、まさに、やったなとばかり手を上げてハイタッチをしようとする。しかし、共に立つを得ぬ。共に腰が抜けておるのだ。エアでハイタッチを済ませたあと、しばし2体で呆然としておったが。
やがて召喚師様が階下より上がって来る。既にカンカンである。
「なぜじゃ。わしらはやり遂げたのに」
「馬鹿じゃないの。何がやり遂げたのよ。マスターの間を壊しておいて」
「見たのか。少なくともわしはそなたを見ておらぬぞ」
との言葉はまさに烈火の怒りに油をそそいだ。
「それは、あんたが前しか見ていないからでしょう。あんたねえ。私たちのこと。少しは心配した。隠し通路にあわてて逃げたから良かったものの。そう。全部、見ていたわよ。そこからね。阿呆の如くに遊びに興じている様をね。私たちがどうなっているか気にもかけずにね」
それから2体は正座させられ――厳密にいえば三助はできないのだが、気分は正座である――こっぴどく説教を受けた。解放されたのは、召喚師様のお腹がすいた半日後であった。
可愛い茶色の付け耳が角の如くに見えたとでもいうのか? 召喚師様が階下に去ったあと、マスターいわく、「恐ろしか。鬼じゃ」




