第20話 シャクトリンゴ大作戦
指名ダンジョン戦は、見ようによっては上々の滑り出しと言えようが、問題はここからだった。今回の敵が再戦を挑んで来るか否かは分からない。ただ、対戦を繰り返していれば、いずれ訪れるであろう。敵が不動明王を採用して、捲土重来を果たさんとする。そのとき、どうするかである。
鎌次郎のクリティカル・ヒットが封じられるばかりではない。最初の作戦に戻り、俺が右腕を硬化して突撃するとしよう。当然、不動明王は立ちふさがろう。俺の拳をプレイヤーに届かせるには、まずは、この上級タンクを押さえ込むなり、どかすなりする必要があった。
タンク職というのは、頑丈さが取り柄のキャラといえる。その代表格は重装備の騎士などであり、攻撃を一身に引き受ける。上級ともなると、その頑丈さは果たしてどれほどのものとなるのか? 外衣ばかりか中身まで鋼鉄でできておるロボットや、語源となった戦車にさえ引けをとらぬのではないかとさえ想える。
もちろん、俺が挑んでどうなるもんでもねえだろう。俺のダンジョンにも、図体だけなら引けを取らぬ者はおった。ものは試しと挑ませるしかないのか?
そんなことを想いつつ、ふと玉座から顔を上げる。そう。実は最初の訪れの後、再び使者たる白猫がやって来て、指名ダンジョンへの昇格祝いとして、これを残していった。果たして、プレイヤー側の憎悪をかき立てんとしてか、玉座の足はしゃれこうべを連ねており――本物か偽物かは知らぬ。偽物であることを願うが――悪趣味の極みと言って良い。
その俺の視線の先には、シャクトリンゴ(巨大シャクトリムシ)の姿が。何となく、目が合った気がする。こいつも俺の仲間の一体。たまには挨拶でもしておくかと想い、「よう。元気?」と声をかけると、何とも嬉しげな顔をして――不思議なことだが、それが伝わって来るのである――こちらに近付いて来る。しかも、高速での尺取り運動を巧みにこなしての爆進である。果たして、その歓喜のゆえのアビリティ獲得か。否、そんなことはあるまい。こいつも、また戦闘に参加しておった。部屋の片隅におっただけとはいえ、勝利のもたらすおこぼれに預かったのであろう。
「ゴメン。ゴメン」
なぜ謝っているのか分からぬままに、俺は部屋中を逃げ回ることに。しかし、俺の頭には一つのアイデアが浮かぶことになる。名付けて、『シャクトリンゴ大作戦』。