第22話 桃先輩17
(視点は桃先輩(本名 明日菜)です)
自室には戻らず、そのまま最上階に至る。尻子玉先生によれば、ここは艦橋とのことで、この宇宙船を操船するときの中心であると。彼は用事があって私を訪ねたあと、しばしここで時を過ごすことを好んだ。
窓外の景色は闇に沈み、昼なら見える拠点も同様である。幻想的な空想に浸れる環境ともいえるが、さきほどのことが頭から離れない。というより、考えのほぼすべてを占めているとさえ言って良い。
急な話で驚いたが、落ち着いてみると、スミレたちが学校を出て行くとの結論に達したのも納得できた。召喚術ができるかどうかも分からないのに、いつまでもそれを待っていても仕方ない。
この世界で召喚師は祝福された存在。何となく、そう想って来た。しかしそれに預かれぬとすれば。私なら、どうするだろう? 途方に暮れるだけかもしれない。
ただ、スミレの対応には腹が立つ。口を出させる気はない、なんて言い方はないんじゃない。ちょっと聞いただけなのに。
とはいえ、今回、スミレは和解への糸口は残してくれておった。弥生を同席させていたことである。つくづく、本件、スミレが蓮華に話してくれていたらと想う。じゃあ、そこをひっくり返せば、ということである。
翌日の夕食後――外の暗いこの時間帯、生徒はほぼほぼ自室におる――やはり3階にある弥生の部屋を訪ねる。ノックする前に、少し聞き耳を立てる。もし、スミレが来ていたら、と想ったのだ。正直、そんな鉢合わせは勘弁してほしいところである。話し声は聞こえて来ず、それでも少しドキドキしつつノックする。スミレがいる可能性が完全に払拭された訳でもなかったし、また、そもそも弥生とうまく話せるだろうか、との不安もある。良くも悪くも、弥生との間にはほとんど関係が無かった。
扉を開けて、私を見た弥生は少し驚いたようだったが、それでも部屋に招き入れてくれ、椅子を勧められる。スミレの方は座らせてもくれなかった。ついつい、そんな恨み言が心中に湧く。私の方が年上だからだろう。弥生は遠慮して、私の発言を待っている。
「この前のことなんだけど」
「はい」
「反対する気はないから。それに、応援したいとも想っている」
彼女は何も答えなかったが、目には大粒の涙があふれて来た。あらためて、彼女たちにとっては、そんなに重い事柄だったのだと知る。
「でも、スミレのあれは無いよね。そう想わない。ああ、これはスミレには内緒ね」
彼女の顔に笑みが現れ、泣き笑いの表情となる。
「出るって、言ってたけど、何か具体的な計画はあるの?」
「いえ。まだ、全然。全部、これからなの。だから、ここで明日菜さんたちの手伝いをしながら、準備をしようって、スミレと話していたの」
私はさん付けで、スミレは呼び捨て。スミレの方が年上なはずだけど、それだけ親密な仲ということなのだろう。
「そう。実は学校の近くに拠点を作ったの。最初はそこで始めるのもいいかもね。安全が確認されたらだけど」
「早速、スミレに話してみます」
「そう。それはいいんだけど。あとのことは、蓮華と進めて欲しいの。あの子は年下だけど、しっかりしてるし、それでいて、天然のところもあるから、スミレともうまくやれると想うんだよね。私の場合は、ぶつかっちゃうんだよね。私の娘のウラがここにいるんだけど」
「知っています。とても元気なお子さんですね」
「まあ、それがいいかどうかは分からないけど。そのウラにサンゴというライバルがいるんだけど、なんかケンカしつつも、私とスミレより、うまくやれているんだよね。何でだろう」
「何ででしょう」
そう言う弥生の顔は涙も乾き、ほがらなか笑顔が浮かんでおった。
「手伝ってくれるのも。次に蓮華が来たときからでいいよ。スミレも私もまだ気まずいしね」
私はそこまで言うとホッとするとともに、なぜか、涙が出て来た。弥生に気付かれぬよう、素早くぬぐうと、見送ろうと立ちかける弥生に、
「座っていていいから。でも、弥生がいてくれて助かったよ。私もスミレもね」
そう言い残し、部屋を出た。




