第15話 遊園地6
(視点はタナトスです)
巨大な建造物が現れる。前方に入口らしきものが見え、窓らしきものは見当たらない。その外周はゆるりカーブしているようだ。そもそも何のための建物だ。
「もしかして、闘牛が見られるのかな?」
とヒュプノスの何気ない発言。
「それを願ったのか?」
「ううん。だって牛さんが可哀そうだもの」
「なら、牛じゃねえな。そうである理由がねえ。もしかして、俺たちか?」
「そうだ。厳密にいえば、タナトスだけだが」
不意に女王が口をはさむ。
「あんたが望んだのか?」
「そうだ。お口直しにな。先の決戦の後味は決して良くなかったからの」
それを聞いてか、運営使者が振り返り、その顔は喜んでいるように見えた。
「お気楽観戦とはたいしたご身分で。さすがに女王様というだけある」
とはタナトス。
箱列車を降りて、十人ほどが並んで入れるほど横に広い入口を通る。一端、階下に降り、ほとんど灯りの無い廊下を手で側壁を確認しつつ進む。ただ出口らしき上り階段には光が当たっておった。
実際、その階段を昇ってみると、青白き光が照らしだす世界となっておった。上を見ると、中天に月が現れておった。雰囲気は上々という奴か。手のこんだことで。タナトスは薄い唇を歪める。
中に敵がたむろしておった。
ぐるりを見回せば、観客席に囲まれた円形闘技場だと分かる。
「観客はあんただけという趣向か?」
「それくらい、いいじゃろう」
「まあ、どうでもいいといやあ、どうでもいい。しかし、多すぎないか、敵さん」
「千人組手じゃ」
「ここに入ってからのち、何となく、あんたはまともな奴と想えて来たところだったが。どうやら、それは間違いのようだな。やっぱり気がふれてやがる」
「そう、文句ばかり垂れるな。一応、そなたへのプレゼントも用意しておる。ほれ」
次の瞬間には、タナトスの両腕が刃に変わっておった。
「それは初期形状だが、そなたの望むままに変えられる。頭に想い描くだけで良い。何なら、足も武器にできるぞ」
「勘弁してくれ。それは俺の美意識に反する」
「何だ。ようやくやる気が出て来たか」
「荒事は嫌いなんだよ。この先に何があるのか知りたいだけだ」
「結構。結構。どんな理由であれ、やる気、大歓迎じゃ」
ある程度、近づいてみて、相手の大きさがほぼ明らかとなる。前方に居並ぶ者ののほとんどがタナトスより大きく、体もごつい。ただ、手抜きかと想われるところもある。その者たちの姿もまとっておるものも構える武器もまちまちなのだが、いずれも灰色である。泥人形相手に斬り合いとはね。
(見た目、力自慢っぽいが。あとはやってみなけりゃあ、相手の強さは計れんな)
前列の中から最初に斬りかかる者を選ぶ。頭がトカゲだったゆえではない。その者が鎧をまとっておったゆえだ。女王のくれた武器の切れ具合を試すのにちょうどよい。
「なまくらだったら、承知しねえぞ」
相手が剣を振り下ろす。ひらり、横に飛んでかわしつつ、胴をなぎる。そこまでは良かったが、相手の胴体から鮮血がほとばしる。タナトスの体といわず顔といわずが朱にまみれる。
「まったく、女王様は残酷がお好きと」
タナトスが切り結ぶたびに、青白き月下に赤き血の花が咲き乱れた。




