第19話 指名ダンジョン第1戦
ここまでの勝ち星のおかげで、ダンジョンは地下3階まで広がっておった。その最下層たる3階で俺は迎え撃つことにする。そして、俺が得た新たなアビリティ『隠し通路』で1階の最初の部屋――最初の頃、俺が戦っていた――と最下層の部屋を結びつけた。実際、自分で通ってみると、すり抜け可能な壁という他ないものとなっておった。外見上の変化は全くない。どういう仕掛け――少し周りを探してみたがフォログラム投影装置のごときものは見出せなかった――か分からぬが、物理法則よりゲーム仕様が重んじられるこの世界ゆえというほかない。また、裏側――つまり通路側から見る分には、部屋の中は丸見えだった。
この二部屋を結んだ狙いは二つあった。一つは、まずもって最初の部屋に隠し通路があるとは人は想わぬはずだから。もう一つは隠し通路にリス吉を配置しておき、進入して来たプレイヤーたちの目撃情報をできるだけ早く報告させるためであった。
なぜリス吉にしたのかというと、身軽なゆえに、走っても足音がほとんど立たないゆえである。それでも、プレイヤーたちが3、4部屋奧に進んだのを確認してから報告に戻るように念を押した。大きな耳がここでは何の役にも立っていないことについては、何も言うまい。人間――あっ。お前はリスか。――誰しも、できることとできないことがあるからな。
そのリス吉の報告を皆で聞く。この者も三助同様、話せるアビリティを獲得しておったのである。異なるのはその言葉が人間のものということ。この違いが生じたのが何故か、というところは分からぬ。まさに運次第というところか?
「そうか。一人だけ赤いオーラをまとっておったと。恐らく、そいつがプレイヤーの操作キャラとみて間違いあるまい。これは俺たちにとって朗報だ。そいつさえ倒せば、こちらの勝利となる可能性が高い」
チュートリアル・ダンジョンでの戦闘の最終形態は、腕自慢がプレイヤーの足を握って止め、ついで、鎌次郎が首を刈るというものだった。その2体も俺の言葉に強くうなずいているはずだ。『はず』というのは、腕自慢にはもともと顔がなかったし、鎌次郎は相変わらず落ち着きが無いようで、その姿は見つけられなかった。
これで相手が3体に増えても同じこととなるはずだった。俺がプレイヤーをしていたときも、操作キャラがやられた時点でゲームオーバーとなった。また、敵が明らかに操作キャラを狙って来るというのも、たびたびあった。ただ、果たして俺たちに見分けられるのかというのが懸念点の一つとしてあったのだ。何らかのアビリティを得て、初めて判別可能になるのではないかとの懸念が。もう一つの懸念は、ゲームオーバー判定がちゃんとこちらの世界にも反映されているか否かであったが。
敵は地下2階まですみずみを探索し、そこから壁にぶつかっては跳ね返されるを何十回と繰り返し――しばしば、罵詈雑言と呪詛を口にしながら――ついに1階初めの間に戻り、そこにて隠し通路を見だし、歓喜の声を上げた。俺たちは、そこを抜け出て来るのを、ここぞとばかりに待ち受け、これまで通りの戦法で赤いオーラを放つキャラを真っ先に倒した。そしてやはりそこで俺たちの勝利判定となった。