第7話 遊園地2
「ジェットコースターってあるのかな? 乗ってみたいな」
そのワクワク感に満ちたヒュプノスの声を聞いては、タナトスは悪い予感しかしない。そんな中、徐々に箱列車のスピードが上がり始める。
「おい。おい。冗談だろう」
想わず叫んでおった。
「タナトスは怖がりだもんね。僕は平気。もっともっとスピード上げてよ」
箱列車がグンと加速する。
「女王様よ。何でもするから、止め方を教えてくれ」
「悪いが、知らん」
恐怖のために体が震えだす。
「おじいさん。どうして、そこにいるの? 僕が先頭のはずだよ」
「何がどうしたんだ? ヒュプノス?」
「前におじいさんが現れたの。今は先頭がおじいさん。僕が2番目。で3番目は」
「分かったよ。分かった。女王。あんたの仕業か」
「我がなしたは、そのじいさんのために箱を出したのみ」
「それで、どうすれば良い?」
「知らんと言うておろう」
「あんたじゃない。じいさんに聞いている」
「それもそうだ」と女王。
「ヒモを引くんじゃ」
白猫の姿に邪魔され、じいさんの姿は見えぬが、その声は震えておった。俺と同じく怖いらしい。
「そうなの。分かった。僕が引くね。そしたら、交代だよ。僕が先頭なんだからね」少しばかりのち、「あっ。ヒモ」
虚空に1本の白ヒモが吊り下がる。
「待て」
その台詞とヒュプノスがヒモへ向けて飛ぶのが同時であった。抜群の運動神経を見せ、引いてみせる。ただ、列車は減速せず、ヒュプノスを置き去りにする。
それをじいさんの声が追う。
「待てと言うておろう。それは外れくじだ」
恨みがましく虚空に響く。
「どうする?」とタナトス。
「そなたが引くしかあるまい」と女王。
「そんな怖いことできるか」
「仕方ない。わしがやってみる」
「じいさん。いや、じい様。頼んだぜ」
「わしが失敗したら、そのあとは己でやるんじゃぞ。派手なヒモが当たりくじじゃ」
「縁起が悪いこと言うんじゃねえ。大丈夫。じい様なら、やれる」
「ほら。あれじゃ。しっかり見ておけ」
そう言われても、タナトスは恐怖のために顔も上げられぬ。ただ、じいさんが動いた気配は無い。
「じい様。どうした?」
「1週。待つ。白ヒモはたくさん垂れておるが、さすがにウルトラ・レア。飾りヒモは1本きりじゃ」
しばしのち、
「ほれ、また見えた。これでタイミングはばっちりじゃ。1、2、3」
そのあと、じいさんが悲鳴とともに後方へ飛び去ったのだろうことが察せられた。髪の毛に何かが触れたような気がしたし、じいさんの声が次第に小さくなり、ついには消えたからだ。
「女王でも第3でもいい。何とかしてくれ」
「無理だ。言うたろう。我らは触れぬ」
「まったく」
タナトスは顔を引きつらせつつ、ようやく立ち上がる。
「あれか? 何であれが取れねえんだ」
手を目いっぱい伸ばせば、届くだろうあたりに派手なヒモが見えた。他は全部白なので、間違える恐れはないようだ。
「じいさんはそなたより背が低いからな」と女王。
タナトスは膝を震わせながら、なんとか立ち上がる。ただ、伸ばしきるにはよほどの勇気が必要なようで、飾りヒモを何度かやり過ごした。
6周目、足と手を伸ばせるだけ伸ばして、ようやく、それを取る。
すると、箱列車が減速しだした。




