第3話 始まり3
本話は「ヒュプノスとタナトスの大冒険」の第3話として連載したものと同一です。なので、読まれました方は読まなくて良いです。
「その女王様がここで何をしている?」
とタナトスが不審の感情を声に乗せて問う。
「さあな。気付いたら、ここにおった。ただ、想わぬところがない訳ではない」
男女2声よりなる女王の答えであった。
「もったいぶらずに言えよ」
タナトスは丁重さのかけらもなく問う。
「我の大願こそが、ここに導いたのではないかと。とすれば、もしや、ここにて、それが成就するのではないかと」
「こんなところに追いやられ、まだ女王様気分が抜けねえのか? 世界はあんたを中心に回っている訳じゃないぜ」
「小僧が憎らし気なことを言うようになったものよな。赤ん坊のときなどは、オムツ替えの際に、その可愛らしいオチンチンをさらしておったのにな」
「何を言うか」
タナトスはその浅黒い肌を透かして分かるほどに、赤面した。
「ハハ。冗談だよ。我ら母海生まれに、そのような経験などなしたくてもなせぬわ。しかし、そんなことにも想い至れぬとは、そなたもまだまだよのう」
「タナトスをからかって、喜んでるの? 向こうの女王はいい奴だったけど、あなたはずいぶん悪い奴みたいだね」とヒュプノス「恩義に感じるところもあったから、向こうは上書きしなかったけど、あなたはしてもいいかもね」
女王はしばし口を閉ざした。
「それが本当なら、礼を言わねばならぬな。正直言って、あの娘は我の希望そのものゆえな。あの娘にもそなたらにも、祝福あれ」
「ふーん。あっちの女王に対する想いはあるんだね。彼女と僕らは似た者同士。そう感じたんだけど、どう想う?」
再び女王は沈黙する。
「どうやら難しい質問だったようだね。まあ、でもあなたも全くの悪人という訳ではないみたいだね。とりあえず、上書きは止めといてあげるよ。内緒だけど、できるだけ、上書きはしないようにしてるんだ。これからはね」とヒュプノス。
「ところで、あんたのその大願という奴を教えてくれないか?」とタナトス。
「我々の世界をその派生元たるゲームから分離独立させること」
「そう。大変そうだね。頑張ってね」とヒュプノス。なぜか、手を振ってみせている。
「そこでだ。折り入って頼みがある。手伝ってくれぬか」
「あんたが自分でやれば、いいだろう。世界の中心たる女王様なんだから」とタナトス。
「我ではできぬのだ。存在の位相が異なるからな」
「知ったこっちゃねえよ」とタナトス。
「ねえ。僕、さっきから予感がしてるんだけど。あなたが描かれてるフタ。その向こう側ってどんななの。なぜか、すっごくワクワクしてるんだけど」とヒュプノス。
「入ってみるか?」
「入っていいの」
「うむ。とりあえず、入ってみて、それから我を手伝うか決めれば良い」
「やったー」とのヒュプノスの歓声と「やれやれ」とのタナトスのかすれ声が重なった。




