第2話 始まり2
本話は「ヒュプノスとタナトスの大冒険」の第2話として連載したものと同一です。なので、読まれました方は読まなくて良いです。
筋斗雲がたどり着いたところ。そこは上空はるかな高みのようであり、眼下には雲のみが見えた。
自らの腰にしがみついておったタナトスが離れたのを知り、
「怖くなくなったの?」
とヒュプノスは上目遣いに尋ねる。
自らの足で立つを得た――このときの筋斗雲は、元の水平の状態に戻っておった――タナトスは、ヒュプノスより頭一つ分は背が高い。
「どうやら高くなり過ぎて、平気になったらしい」
「変なの」タナトスの怖がり振りが面白かったらしいヒュプノスはやや不満げであった。ただ、何か他に気になることがあったらしい。「ねえ? 何か言った?」
そう尋ねられたタナトスもまた問い返す。
「お前こそ、何か言わなかったか?」
「ううん。でも声が聞こえる」
「俺もだ。それも一人ではない。たくさんだ」
〈こいつらは誰だ?〉
〈また侵入者か? まったく最近は物騒だな〉
〈ところで、そなたらは女王のことを知っておるか?〉
「知ってるよ。捜してるの?」とヒュプノスの甲高い声が答える。
〈答えたぞ〉
〈なんだ。知っておるのか〉
〈教えよ。どうなったか?〉
ヒュプノスもタナトスも、女王が析出して参戦したことは知っている。ただ、勝ち負けも含め、正確な結果は知らぬ。なので、答えることなどできぬ。
手で触れえないどころか、目にも見えない相手である。にもかかわらず、二人の沈黙が長引くほどに、その存在による圧が徐々に高まり、息苦しくなるほどであった。
「ダメだ。ヒュプノス。答えては」タナトスがようやく口に出すを得た言葉である。
〈ヒュプノス。ヒュプノスとな。聞いたことがあるぞ。ならば、タナトスもおるのか?〉
〈呪われた者たちにほかならぬ〉
〈ここから逃がすな。もしかすると、こいつらが女王に何か、したのかもしれぬ〉
〈捕らえて、吐かせよう〉
「逃げるぞ。ヒュプノス。つかまれ。筋斗雲よ。更に上へ」
その至った更なる高み。そこには、ただ一つのものがあった。それが見慣れたもののように思えたヒュプノスが、そのまま声に出す。
「なんで、ここにダンジョンのフタがあるの?」
まさに、それは見た目、円形のフタであった。横に回ってみなければ、薄いか厚いかは分からぬ。それを確かめようとしてか、タナトスが横に回ると、確かに薄いフタであった。ただ、その後ろには、ダンジョンはおろか、何もない。
「それに、これ。誰が描いたんだろう。女王だよ」
続くヒュプノスの言葉もまた、周りに何もないためか、空間に消え行くようであった。
そこに見えるは、ダンジョン侵攻に女王が用いた機体であった。黒い、のっぺらぼうのスライムであり、その体表に縦線――真ん中で切れておるものもあれば、そうでないものもある――が6列並んでおる。
「これこれ、絵ではないぞ」不意に男女の二声が同音に答えた。
それを聞いたヒュプノスが悲鳴をあげ、彼を守ろうとしてであろう、タナトスが前に進み出て、立ちはだかる。
「本物じゃ」フタに描かれたとしか想えぬ者は、そう続けた。
口は無く、ために声が聞こえても、動きなど無い。なので、相変わらず、絵かそうでないかは、二人には判然とせぬ。




