第52話 鉄チン6(アナーヒター5)
マスターの下でアナーヒターは成長したかしら、と期待しつつ、久しぶりに地獄巡りに戻った鉄チン。そのアナーヒターがまさに待ち受けておったのだが。ただ、予期せぬ状況とともにであった。
「鉄チン。見て見て」
そう言う彼女は上半身どころか、全身を水から出しておる。これでは、マッパじゃないの。幸いなことは、体が不安定な水でできておるため、その輪郭がくっきりしないことか。
「ほらほら。鉄チン。いい」
それから、
「アナーヒター。可愛いお尻をフリフリ」
そう節をつけて歌っては、まさにそのお尻をフリフリしてみせる。
そして、その隣にはマスターが。しかも、こちらにお尻を向けて座っておる。竜身なので、長い尻尾が所在なげに伸ばされており、私はそれを避けて、アナーヒターの後ろにおのずと陣取ることになる。大きな図体にもかかわらず、ちょこなんと座っておる。そんな形容が似合う雰囲気が漂っている。マスターには常に誇り高くあって欲しいのだが。悪い予感しかしない。
そして、やはりアナーヒターがこう言う。
「さあ。次はマスターの番。せえの」
マスターが竜の咆哮もかくや、というか、まさに竜の咆哮そのものの大音声で歌うには、
「マスターも大きなお尻をフリフリ」
そして尻尾がぶん回される。鉄の体でも、それで打たれてはたまらない、と想わず更に距離を取る。
「さあ。次は、鉄チン。マスターの隣に行って。早く」
仕方なく、移動する。そこで、ようやく運ゲー野郎から己が連れて来た2体、『焼けぼっくり』と『ミイラ蛇』が部屋の隅でぐったりと横たわっておるのが見えた。やはり、悪い予感しかしない。
「いい。鉄チンさん。準備できた」
「ただ、私には尻がありません」
「いいの。いいの。さあ、行くわよ」
「鉄チンさん。尻もないのにフリフリ」
仕方なく、それに合わせて、尻というか、体全体をフリフリする。
わざわざすぐ近くに来て、わたしの踊りを見ていたアナーヒターいわく、
「いいです。いいです。その調子です」
「なんか3バカトリオみたい」
「その3バカのオチを務められるのは鉄チンさんしかいませんわ」
「オチとは何です」
「重要ということだ」
なぜか、マスターがいきなり口を挟む。
「ならば気合を入れてやりますぞ」
「さあ、始めから行きますよ」
アナーヒターは最初の位置に戻り、これで3体横並びとなり、踊り始める。
正直、アナーヒターの成長ぶりには驚いた。引っ込み思案というか、ものおじするというか、そんな感じであったのが、私どころか、マスターさえ指揮しておるほど。将来の神将との見込みは、あながち間違いではなかったか。あきらめの悪い鉄チンであった。
なにはともあれ、3バカトリオの楽しき1日はこうして過ぎ行くのであった。




