第50話 蓮華9
(視点は尻子玉先生です)
護衛の方々が来たと、蓮華の嬢ちゃんに伝えたあと、小屋に戻って待つ間、その方々とひと悶着らしきものが起きた。
呪々(じゅじゅ)という者が我の顔を見て、想わず目をそらした。そればかりか、体を震わしておる。まるで、恐ろしきものを見たかの如くである。いやいやご自分の面相をご存じですか、どの面下げて我の顔が恐ろしいなどと、との冗談のつもりで、グイとねじこむように、己の顔をそらした相手の顔の真正面に。
すると相手はギャッとの悲鳴をあげた。それは心底、恐れる者が発する悲鳴にほかならなかった。そのことに、我自身がうろたえておると、おむすびヒジキが血相を変えて、その巨体を割り込ませて来る。
これでは我が相手を恐がらせて楽しむ類の愚劣な者同然ではないか、と不満に想うも、あんな悲鳴を聞いては無理もないかと想い直し、ほら、何もしないからとの意味を込めて両手を上げつつ後退し、更には、ほら、大丈夫だからと笑顔をつくる。
すると、なんと、おむすびヒジキがその三角形の顔をゆがめて泣き始める。何? そんなに恐い? 我の笑顔って、そんなに?
そんなこんなで我が悄然としておるところへ、蓮華の嬢ちゃんが来る。お見送りなのか、年少組――おそろいの赤い服からそれと分かる――が大勢ついて来ている。
「お世話になりました」との声を嬢ちゃんがかけてくれ、「お疲れ様です」と答える我。
すると、なぜか、彼女の後ろにずらり年少組が並んでおる。
「さあ。みんな。準備はいい」と彼女。
「はい」と声をそろえて答える。
「せえの」のお嬢ちゃんの掛け声のあとに、
「尻子玉先生。私たちのために戦ってくれて、ありがとうございます」
と皆で言うと、深々とお辞儀をする。
「どうして?」我が想わず、そういうと、
「教えたの。あの決戦の話。そうしたら、お礼を言いたいというから、連れて来たの」
我は顔をどちらに向けて良いか分からなかった。上を向けば、泣き顔を見られ、といって、うつむけば、大粒の涙が落ちるところを見られてしまう。




