第48話 蓮華8
ウラとサンゴの励ましで、多少なりとも元気と笑顔を取り戻した蓮華。そうなってみれば、様子をうかがっておった生徒たちも近づいて来る。蓮華自身は気付かなかったが、失敗したことで、むしろより近づきやすい存在となったようだ。
それは、桃先輩のときは、「見てください」と言って来る者が多かったのに対し、蓮華のときは「一緒に練習してください」に代わったことに明瞭に表れていたのかもしれない。生徒にとっては、同じ召喚できない人となったのだ。
だいたいにおいて、まずは蓮華がやってみせるのだが、やはりうまく行かない。蓮華自身も徐々に慣れっこになっており、できないことから来るショックはあまり感じなくなっており、代わりになぜだろうとの疑問符が頭を飛び交う状況となっておった。
そうして、相手の番。蓮華には、アドバイスできるコツがあった。ただ、これは幻影を出せる段階に達しているという条件付きであったが。召喚の舞いとはほぼほぼ舞いつつ歌うのだが、その歌声の倍音を豊かにするのである。一般に舞いが主、歌が従とみなされがちであり、なので、この蓮華のアドバイスは多少の驚きと不審をもって迎えられた。相手が要領を得ず戸惑っていると、蓮華はその歌の部分を自ら歌ってみせた。それをまねて、うまくいくこともあった。
それでも、そこでの上達は、幻影がより明確になったり多彩になったりに留まるのだが、なかには鈴蘭の場合の如くもあった。
その子は鳥が羽ばたくような舞いを踊る子で、蓮華はピヨ丸みたいと想わざるを得なかった。蓮華の助言の下、召喚を何度か試みるうちに、羽ばたきにより造られた幾重もの白い羽――これが彼女の幻影であった――それがひとつの球に収束したと想うと、次の瞬間、モンスターに変わった。
「うそ」鈴蘭自身がそう言いつつ、それを拾い上げる。
蓮華もまたかたわらに行き、のぞき込む。そして「ちび丸」とのいつもの安易な名づけを発動してしまうが、さすがに鈴蘭にとっての始まりのモンスターであることに気付き、
「あっ。御免。あなたが名前をつけてあげて」
「ううん。白蓮さん。そう呼ばせてもらっていい?」
「もちろん」
「そのお名前をいただくわ。だって、この子が生まれたのは、白蓮さんのおかげだもの」
と満面の笑顔。
それがおのずと蓮華にも移り、いわく、「でも、小さいねー」
それは、まさに小指大のスライムであった。




