第47話 蓮華7
桃先輩は上階にある教師用の部屋を使っていたようだが、蓮華は3階の年長組用の部屋にした。かつての自室が空いていたためだ。懐かしさもあり、また、自分が教師用の部屋なんてとの気持ちもあった。
ただ、こうなっては、桃先輩のようにすれば良かったかなと想う。涙を見られたこともあって、とても気まずいのだ。
今日は到着1日目の昨日と違って、皆と一緒に昼食を取らなかった。夕食も自室で取ろうと想っている。顔を合わせれば、慰めてくれるだろうが、なんて答えて良いか分からない。
今日はもう部屋の中でおとなしくしていよう。そう想って過ごし、頃は既に夕刻。扉の前で声がする。もしかして、夕食に誘いに来たのかな。正直、嫌だなと想った。
ただ、待っていても、声をかけては来ない。といって、去った訳ではない。何せ、扉の向こうでは、相変わらず声がするのだ。どうやら、声をかけるかどうかを言い争っているらしい。普通はこちらに聞こえないようにするものと想いつつも、声の特徴から誰か分かった蓮華は、あの2人なら仕方ないかと自分の方から扉を開ける。
驚きに見開かれた目でこちらを見上げる2人。あんなに大声で話していたのに、気付かれないとでも想ったのか。そして、やはりたくましい。
「白蓮姉ちゃん。ドンマイだ。母ちゃんがちゃんと見せてくれたから、姉ちゃんが失敗しても大丈夫だ」
慰めようとしておるのだろうが、慰めにならぬことを言うウラ。
「姉ちゃん。虫。食べるか」
と既に慰めの言葉でさえないサンゴ。
それでも、2人の気持ちは嬉しく、その手を引いて校庭に降りる。2人の声はとても大きく、隣人にとっては明らかに迷惑だろうから。
夕陽が学校の流線形のシルエットを照らし出しておった。
「ねえ。白蓮姉ちゃん。知ってる。母ちゃんが尻子玉先生から聞いたんだけど、学校の建物って宇宙船なんだって。空を飛べるんだって」
「本当?」
「尻子玉、抜かれたくない。こわい~」
そう叫んで、サンゴが走り出す。恐怖に駆られてというより、はしゃいでいるようにしか見えぬ。
「あきらめろ。私が抜いてやるから」
なぜかウラがそう叫んで、追いかけ出す。
蓮華はようやく笑った。




