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第46話 蓮華6

 校庭にて。時間としては、まだ朝のうちに入る。到着してのすぐのおねだり、それがまったく止む気配がなく、それならと、一夜明けてのこのときに披露することになったのだ。


百連びゃくれんねえちゃん。ガンバッテ」特に親しい者が用いるあだ名で呼びかけるはウラ。人懐っこい性格もあって、蓮華の在学中からなついておった。自分のお母さんと親しいと知って、まさに気分は実の妹。


「お姉ちゃん。ごほうびに虫をたくさん取って来たから、あとで一緒に食べようね」

 と負けじとサンゴ。ポッケから逃げようとする虫を押し戻しつつであった。


 この2人は何かにつけ張り合わねば気が済まぬようであり、2人して第1等の席――最前列の真ん中に陣取る。周りを囲む他の者たちも声援を送る。やはり近くに年少組、次に年中組、遠巻きに年長組であった。


(緊張するな)

 これだけ大勢に見られるのは初めてだ。1番、多かったのは、この前、道夫たちに披露したときだ。在学中はいつも一緒に練習していた親友と自分を指導してくれた先生の2人のみ。この学校は自分で先生を選ぶことができた。


 いつもの始まりのポーズ。両手を高くかかげる。手首のちょっと下で両の手を交差させて、手の平は外側に向ける。それから、ゆっくりと円を描くように舞い始める。柔らかな高音の歌声を響かせつつ。


 ただ、しばらく舞って、不意に止めてしまう。戸惑いの表情で見上げる。本来なら、7色の細帯が螺旋を描きつつ降りてくるはずであった。


 両手を下ろし、手の平を見る。


「ガンバレ」

「もう1回」


 声援に気を取り直し、もう1度、最初からやり直す。しかし、やはり7色の帯は現れなかった。声援が大きくなる中、何度も試みるが、そのたびに失敗する。ついに蓮華は悔しくて、自分が情けなくて泣き出してしまう。


「ほらほら。みんながそうやって見ているからできないんだよ。明日菜あすなと違って、蓮華ちゃんは繊細なんだから。さあ。みんな。今日のところは解散。解散」


 側に立つその人――桃先輩を本名で呼ぶその人を見て、蓮華は言葉を発する。


「スミレさん。お久しぶりです」


「かしこまるなって。おおかた、明日菜に何か言われたんだろうが」


「助けてくれて、ありがとうございます。どうすればいいか分からなくなってしまって」


「いや。それくらいが可愛いのよ。私なんて未だにできないんだから。それに引き換え、あの明日菜の憎らしいことといったら。ちゃんと召喚してみせた」


「明日菜さんはそんなに悪い人ではないんです」


「まあ、それはいいさ。私の方が付き合いが長い」


「何かあれば、伝えます」


「それも明日菜に頼まれたか? でも、いいよ。また、来るんだろう。そのとき、直接話す。その方が話が早い」


 蓮華の頬に布が当てられ、涙をぬぐってくれる。そうしてくれた人いわく、


「ほらほら。可愛い顔が台無しじゃない」


 見ると、スミレと同じ髪型の人。


弥生やよいさん。ありがとうございます」


 しゃくり上げつつも、蓮華は何とか気持ちを伝えた。


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