表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
169/189

第44話 蓮華4(第6人格4)

(第6人格視点です)

 それから、蓮華は実のなる生物のところに行く。


「桃先輩が言ってたやつだ。でも、実が全部、食べられてる。ゴキ夫の同類がたくさんいたみたいだから、彼らが食べたのかしら?」


 すると、獣が彼女のかたわらにやって来て、体をこすりつけようとする。彼女いわく、


「どうしちゃったの? ポチ。ウンコ付けて来たんじゃないの?」


 果たして、体をこすりつけようとする獣と、それから何とか逃れようとする彼女のドタバタがしばらく続く。やがて、獣が宙に向かって吠えたと想うと、1体のモンスターが姿を現す。


「鎌次郎。いたのね。また、止まらないと姿が見えないのを忘れていたでしょう。みんなで心配してたんだから」叱り気味にそう言ったあと、納得した感じで、「ああ。あなたが食べたのね」


 やがて、彼女はわしの方に向かって、

「そのてっぺんに乗っていいの?」


 桃のあねさんは足の中で休んだが、こちらは高所がお望みらしい。召喚師もいろいろだなと想いつつ、「もちろん」と答え、足の1本を差し出し、穴が上向きになるように曲げる。どうやら、意を察してくれたらしく、説明するまでもなく、その穴に入る。第23人格A(尻子玉先生)と異なり、彼女に壁の刻みを伝って登らせるという危ないまねをさせるわけには行かない。


「落ちないでくださいよ」


 わしがそう言ったにもかかわらず、「うわー。高い。ああ。学校が見えるわ。懐かしい」との感嘆のあと、塔頂部のヘリまで行くと、下をのぞきこみ、「うわ。落ちたら、死んじゃうね。ダンジョンの方が安全ね」となぜか、納得する彼女。それから、「ピヨ丸。来てくれたの。1週間くらい、学校にいるから」との声が続く。


 そののち、彼女が出発するというので、ひとつ頼みごとをする。


「一行のうちの1体が逃げるのを見ました。あなた方が何と呼んでおるのか存じませんが。ほら、この周りにおる者たちと同族の」


「ああ。ゴキ夫ね」


「そのゴキ夫にわしと話をするよう言ってくれませんか?」


「えっ。でもゴキ夫はしゃべれないわ」


「そうですか。それは残念です。それでは、逃げなくて良い、何もしないからと、それだけをお伝えください」


「ゴキ夫と何かあったの?」


「はい。以前にちょっと」


「分かったわ。仲直りしたいのね。あなたは悪い方ではなさそうだから、伝えておくわ。もしかしたら、ダンジョンに逃げ帰ったのかもしれないけれど」


「僕は喋れるんだよ」なぜか、派手なスライムがそう言う。


「私も」続いて、なぜか、呪々までもがそう言う。


 何か張り合うべき理由があるのだろうか? とっさのことゆえ、どう答えて良いか分からず、黙っていると、


「さあ、行きましょう」との彼女の言葉を残して、一行は去った。


 幼生との交流は、己にやすらぎをもたらし、深き沈潜へと導く。そこでは、あらゆるものがつながり、一つに融合する。ゆえに、個体化の欲望も消失し、あらゆる個体はゆるやかな流れのうちに消失する。わしはこれこそ母海ぼかいなのではないかと考えておった。


 他方、召喚師との交流は、騒々しくはあれ、異なる思惟の体験をもたらしてくれそうだ。そこに沈潜するを得れば、それはそれで極上のものとなりうるのではないか?


 第23人格Aにいざなわれたとき――このときでさえ、期待といいうるものを抱いたのだが――そのとき想っていたものより、ずっと良さそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ