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第43話 蓮華3(第6人格3)

 第6人格は先祖伝来の視覚にて見ておった。黒地に横軸・縦軸の白線が走る格子縞の世界である。そのほつれに幼生――先祖形態の者――が数体、群がっておった。そのおいしさが詰まった映像イメージが、後に彼に送られるかもしれぬ。幼生にとっての食事がこの世界を修復する。自らの一族とこの世界の親密さ。それがもたらす居心地の良さに彼はしばし、たゆたうことにする。


 その明暗のみの世界が不意に色づいた。もしかして。彼は急ぎ視覚を切り替える。

先頭の者は見覚えがあった。確か呪々(じゅじゅ)といったか。


 次は、あれは、もしや誤・転生体。ただ、こちらに気付いたのか、急ぎ走り去る。不動を体現した如くの彼のさがに関わらず、追いたいとの衝動に駆られ、あやうく足を曲げかけた。


 ただ、アレには手を出すな、とのかつての運営使者の忠告が彼を引き留めた。更には、決戦ののちに、アレは今後監視するにのみ留める、との仲間で出した結論が想い出される。彼は監視をなしておるはずの第23人格Cの機体を捜し求めるが、それらしき者は一行の中にはおらなかった。その一行であるが、誤・転生体が逃げたゆえか、しばらくあたふたしておった。


 一行の中に、この世界を色づかせたであろう者がおるはずである。第23人格Aが『桃のあねさん』と呼ぶ者が来たときも同じ反応が見られた。そして、確かに、遠目にも似ており、同じ白衣に身を包む者がおった。


 やがて、決着したのか、あきらめたのか、一行が再び歩み出す。


 誤・転生体が振り落としたスライム――やけに派手な色遣いのスライムを、呪々(じゅじゅ)が抱き上げる。


 その後を歩むのが召喚師と想われる。近づくにつれ、見覚えのあることに気付く。果たして、名は何と言ったか。この者のダンジョンにも、運営使者とともに武器を届けたことがあった。ただ、あのときは、世界が色づく反応に気付かなかった。とすると、多少なりとも、この機体(=中継基地)のアビリティに助けられておるのかもしれぬ。


 そのあとに続く者は見たことがなかった。


 やがて、すぐ近くまで来ると、髪に飾り付けた草花により名を想い出す。先の召喚師は、こちらが話しかけると、ずいぶんと驚いておった。この者も、また。「おっきいー」との感嘆のままに見上げている彼女に話しかける。


「蓮華さん。憶えておられますか?」


 こちらの期待通り、相手は目をまん丸にして、言葉も無い。


「すごい。喋れるの。でも、あなたとは会ったことがないわ」


 かつて阿修羅王として会ったことを説明し、そのあとに、

「この世界があなたに感応しておることにお気づきですか?」


「感応って?」


「喜んでいるとでもいいましょうか? あるいは嬉しくってはなやいでいるとでもいいましょうか?」


「そうなの。なら、私も嬉しい」

 声が笑顔とともにはじけた。

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