第41話 蓮華1
ダンジョン『無勝堂』の出口にて、桃先輩に見送られる蓮華一行。
先頭を行くは呪々(じゅじゅ)。
出発するに先立ち、つい先ほど、こんな一幕が展開されていた。
「召喚師様より護衛と道案内を命じられました呪々(じゅじゅ)といいます。よろしくお願いします」
一足先に、地上で待っておったこの者が挨拶する。
「すごい。喋れるんだ」
あらゆるモンスターの言語を操れるという、とんでもチート能力を持つ召喚師一族であるが、それも相手が喋れてこそ。なので、これは素直な感嘆。
「それにすごいね。道案内もできるんだ」
独立以降、ほとんどダンジョンから離れたことがない蓮華。なので、これもそう。
「多少なりとも呪力はたどれますので」
ちなみに、ここで呪々(じゅじゅ)が呪力と表現したもの。実は呪々にはナメクジがはった後のヌメヌメとしたものの如く見えている。なので、その名と姿にたがわず、この者が住んでいる世界もまたおどろおどろしい。
「僕も喋れるんだよ」
と三助がいわずもがなのことをアピールしてみせる。『始まりのモンスター』としての蓮華の愛され1位の座はそうやすやすとは譲らねえとの気概を込めてか。
ただ、呪々が地面近くの三助をのぞき込み、そのガランドウの黒目を1本線に変えてみせると、ヒッとばかり悲鳴を上げて逃げ出した。
その両者のやり取りを憧れ――己も喋れたらなあ――のまなざしで見ておった地走りであるが、今や一行の2番目を歩く。
その頭上には戻って来た三助。本当は呪々ともっと距離を取りたいのだが、あまり臆病なところは見せたくなく、やせ我慢していたりする。
3番目を蓮華。
最後を占めるは、『おむすびヒジキ』。前方の警戒は呪々、背後はこの者という訳である。
その左手から伸びる糸の先にはタコタコー。赤ん坊の哺乳瓶の如くであるのだろう、ようやく所望のものをくわえられて満足げ。本来、この者は無勝堂所属なのだが、桃先輩が「誰か1体、連れて行っていいよ。ほら。慣れているのだったり、世話しやすいのだったり」と言ってくれたので、選んだ。別の理由があった。再度、預かった際に、道夫の飾り紐――本来、道夫のものではないが、蓮華としては処分して欲しいので、彼女の頭の中ではこうなっている――に近づいたら危ないと考えてである。その部屋は閉鎖されているのだが、万が一ということが絶対ないとはいいきれない。考えていないようで、考えている蓮華ではある。
肩の上には、道夫が早くレベル1にならないかと期待している竜が。これも考え無しという訳ではない。竜族はウルトラ・レアであり、生徒たちに是非見せたいと想ったのだ。それに、蓮華にとっては、将来強かろうがそうでなかろうが関係ない。みんな、かわいい。ただ、道夫のことはあまり考えていないかもしれない。
そもそも、タコタコーも竜も、桃先輩が生徒たちにいろんなモンスターに慣れさせた方が良いというので、一行に加えた。
そして、ポチはといえば、臭いに惹かれるままに、あっちをクンクン、こっちをクンクンと鼻を突っ込んでは嗅ぎまわり、そしてシャーとシッコをかける。更には、くさいものを見つけては、体をこすりつけ、くさい己にご満悦。道夫から「ただの犬」じゃねえかとの疑惑をかけられておったが、「ただのアホ犬」と化しておった。




