第40話 桃先輩の帰還
夕刻ごろ、桃先輩が隠し通路から至る。召喚師学校から戻って来たとのこと。声が聞こえたのだろう、自室から飛び出して来た女神様とハグしたあと、長話をしている。
聞こえて来るところでは、予定通り、女神様が交代で行くとのこと。その間、女神様は例のお茶を薦めたりしていたが、あっさり断られる。他人に薦めるようなものではないと気付いてくれと想うも、「そう。ノドが乾いていないのですね」との相変わらずのマイペース振り。
女神様は自室で準備をとなり、桃先輩は両ダンジョンのレベル0モンスターを連れて無勝堂に戻る前に、少し俺と話をした。意見を求められたのだ。
「レベル1以上のモンスターが敵を引き付けることって、あるのかしら?」
「フィールドでってことでしょう。ああ。これは地上って意味です。ないと想います。結局、プレイヤー。ああ。これは」
「つまり敵ね」と桃先輩。
「ありがとうございます。憶えてくれたんですね。プレイヤーが攻略するのはダンジョンで、最終的な討伐対象はマスターですから。そして、その成否で勝ち負けが決まりますから」
「そう。なら、期待できるわね」
桃先輩によると拠点を造ろうとしているとのこと。そして、ダンジョンの入口に近づかないでとの俺の助言が役に立ったと褒めてくれる。そこで、ついつい調子に乗って、召喚の舞い――一つ覚えの臨兵闘者云々(りんぴょうとうしゃうんぬん)を見せ、意見を求める。
「どうです。どう想います」
すると桃先輩は生気のない表情となり、「蓮華に見てもらえば」と返答もそっけない。
「女神様は見てくれないんですよ」と訴えても、桃先輩はため息一つのみを残して去った。
夜も更けた頃、俺が閉鎖した旧ダンジョンマスターの間で天井を見上げているところに、女神様がやって来る。
準備が終わったそうで、これから隠し通路添いに無勝堂に赴きそこで一泊して、いろいろ桃先輩から教わった上で、明朝、召喚師学校へ向かうという。無勝堂の方が学校に近いゆえもあっての、この経路であった。
笑顔にあふれた彼女。
「楽しそうだね」
「うん。とっても楽しみ」
そしてポチを連れて行きたいという。迷子捜しに役立つとのこと。もちろんと俺はOKする。更に鎌次郎が行方不明とのことで、代わりの護衛としておむすび3兄弟の1体『おむすびヒジキ』をつけることにした。ちなみに桃先輩が呪々(じゅじゅ)を貸してくれるとのこと。俺は正直、彼のことが恐ろしいが――だって、でっかいワラ人形だ――女神様は平気みたいだ。
「どうせなら、三助と地走りも連れて行けば。彼らには、いい気分転換になるだろうから」
「そうね。そうするわ」
地走りは飾りヒモでひと悶着あったし、三助は三助で向こうのダンジョンで白ヒモに異様に執着し、それであんなに疲弊しておったことが明らかとなっておった。
まさに、その飾りヒモが俺の視線の先にある。
「これって、そんなに大事?」と女神様。
一応、これの処理方法というのは教えてもらっておった。燃やすという簡単なものだった。ただ、俺はそうせず、とはいえ、誰かが引いては危険ということで、この部屋を閉鎖してまで、ヒモを温存しておった。
「うん。何とか、これを活かせないかと想ってね。ほら。俺って、そもそも武闘派という訳ではないし、だから俺自身のアビリティである硬化よりこっちの方がしっくりくる。何とかうまくできないかなと考えているんだ。戦わずして勝つって、いいよなと想うんだ」




