第33話 桃先輩10
「ハハ。何だい。あんたたち、私を笑わせに来たのかい?」
夕刻、ウラとサンゴが召喚の舞いを見て欲しいと言って来たのである。
まずはウラ。片足で2回跳び、最後は両足で着地。いわゆるケンケンパの要領である。私も子供の頃、遊んだけど。
次にサンゴ。こちらは、鳥さんにでもなったつもりか、両腕を横に開きパタパタさせておる。しかも両目をぎゅっとつぶって。
最初は私のまねをしていた気がするが。1日も経たずに、この変わりよう。私へのあのキラキラした目はどうした? 自由過ぎるだろう。とはいえ、相手は子供。それに召喚の術を会得することになるのはずっと先。長い試行錯誤の道のりが彼女たちを待っておる。ただ、最低限、必要な注意はする。
「サンゴちゃん。目を開けててね。召喚の兆しとして、幻影が現れるの。それを見逃さないためにもね」
「兆しって何?」とウラ。
「前触れかな。召喚の術がうまく行く前に、現れるの」
「幻影って?」とサンゴ。
「何て言えばいいんだろう。普段、見えないものかな」
「ああ。オバサンが舞っているときに何か見えたアレだね」
オバサン呼びは定着か。それに何かって。まあ、でも分かってくれたようで。
「じゃあ。サンゴちゃん。もう1回やってみせてくれる。今度は目を開けてね」
それで、やってみせてくれたのだが、やはりしっかり目をつぶっておる。分かってないじゃない、と突っ込みを入れたくなるが。そこは我慢。何せ、先は長い。それにこの子、将来、頑固ババアになりそうねと想うも、まあ、それはそれ。
「いいわ。サンゴちゃんの代わりに桃先生が見ていてあげるから」
「ありがとう。おばさん」
先生呼びへの誘導の初手は見事撃破されたが、私はあきらめはしない。私も中身は頑固ババアなのだから。
そのサンゴちゃんとのやり取りを見てか、ウラが「見て見て」と言いながら、目をぎゅっとつぶってケンケンパをしてみせる。
いや、あんたはさっき目を開けてできていただろう。とは想うも、そこは我慢。私のときは召喚の練習さえしていなかった。それを想えば、とりあえず練習が楽しいと感じてくれたなら、何よりだ。何せ、これの会得って、結構、大変だから。
そのあとのこと、目をつぶって召喚の舞いをするのが年少組にはやり、私はあんたたち、自由過ぎるだろうと想うことになったりするのだが。
そして2人の様子を見ていて、スミレのことを想い出す。あの子、どうしているんだろう。仲の良い友達というのは他にいたが、スミレとはライバル関係というか、これは良く言い過ぎか、互いにライバル視の度が過ぎて、ついつい意地を張り合い、喧嘩ばかりしていた。




