第22話 鉄チン5(アナーヒター3)
これより少し前のこと。
「アナーヒターです。よろしくお願いします」
ダンジョン『地獄巡り』のマスターの間にてのことであった。ダンジョン『ぺろぺろ』から、鉄チンにより連れて来られた彼女は、マスターにそう述べた。物珍しさからキョロキョロしておった彼女に、鉄チンが挨拶をうながしたのだった。
上目遣いとなるは、両者の体のサイズの差によることが大きいが、頭だけしか水面の上に出さぬよう、鉄チンに念押しされていることも多少は影響しておったか。
その鉄チンは己をこんな風にマスターに紹介した。持ち上げ過ぎなんじゃないかと想う。
「『地獄巡り』の有望株です。彼女いわく水の精とのこと。また、実際、かように水に溶けることから、それはまことと想われます。また、それゆえマスターのアビリティたる属性向上の霊験もあらたかと考えます」
「おお。楽しみじゃ。それにしても、『ペロペロ』のマスターは気前が良いのう。これほどの者の育成をわしに委ねてくださるとは」
そう私についてマスターが言われているのを聞いて、顔から火が出るほど恥ずかしくなる。私の弱さを知ったら、とても残念に想うでしょうね。でも、勝手に期待するのが悪いんだから。
「その『ぺろぺろ』のマスターですが、属性効果のゆえに、部屋と合一し、愉楽に落ちております。更にはマスターの責務をないがしろにされている様子。いかが想いますか?」
「そなたから、他のマスターの話を聞くたびに、会いたくてしょうがなくてのう」
「説教の一つも垂れていただきたいのです」
「そなたも良く知るように、わしらマスターはダンジョンより出られぬ。不可能ごとじゃ」
「はあ」
「よろしく助けてやってくれ」
「もちろんです。『ぺろぺろ』の召喚師様にも助力を頼まれました」
「最も成長がいちじるしいのは、そなたかもしれぬのう」
そう言われた鉄チンの顔を見て、アナーヒターは楽しくなった。まっ赤っ赤じゃない。照れているのが丸わかりね。私は水色だから、バレにくいんだから。へへんだ。
「ところで、マスター。一つお聞きしたきことがあります。この者はかように服をまといませぬ。ゆえに、水から出ると、裸をさらすことになります。マスターも目のやり場に困るかと憂います」
なぜか、鉄チンは最後はもごもごという感じでそう言う。
「気にせんで良い。確かに召喚師の一族は服をまとうが、この者は水の精なのだろう。それゆえのその姿、本来の姿なのであろう。そもそも、わしも裸だし、そなたも裸ではないか」
ただ、その後のこと。彼女をマスターの間の泉に移し終えると、その去り際、鉄チンは彼女にこう言い残した。
「マスターはああおっしゃっていますが、あなたは召喚師の姿にとても似ております。なので、みだりに頭から下を出さぬよう、気を付けてください。分かりましたか?」
そのときは、「はい」と返事した彼女であったが。今、その見上げる先にては、天井から1本のヒモがぶらさがっておった。なぜか、そのヒモを引っ張ってみたくて仕方ない。彼女がそこまで伸びて行くだけの水量を、泉は提供してくれているが、そうするためには、裸身をさらすことになる。
むむ。




