第14話 使者の到来
負け知らず。それもいくつ勝ったか分からぬほどの連戦連勝であった。そんなとき、
「おーい。来てくれ。どうやっても頭が入らぬ」
不意に上から声がした。男性の低く間のびした声である。急ぎ隣の縦穴に行ってみる。少しばかり距離があるので、はっきりとは分からぬが、確かに何かが上部をふさいでおった。
「大変。使者様よ」
やはり声を聞いて、見に来たのだろう。かたわらの女神様はそう言うと、縄ばしごを昇り始める。
「付いてきて」
そう言われた俺も急ぎ後を追う。女神様のスカートがひらりとして、下着が見えそうになり、想わずどきりとする。ただ、下側から照らす満足な灯りもなければ、膝小僧から上は闇の中であった。
最上部に到着した女神様は、そのふさいでいるものを手で押し返す。すると、
「おお。来てくれたか。どうにも入らぬのだ。チュートリアルのダンジョンに入るなんて久しぶりだから、体のサイズを間違えたようじゃ。ふはは」
「無理ですよ。私たちが出ますので、外で待っていてください」
彼女に続いて、外に出てみると、巨大な白猫が鎮座しておった。顔のあたりをぽりぽりしておる。
「この体は便利でのう。頭さえ入れば、何とかなるのだが、それができねば、どうにもならぬ」
という口の周りに土が円を描いてついておる。ピンクの鼻は円の内側だが、耳はおろか、目でさえ円の外にある。入るか試してみるまでもあるまい。しかし、それ以上に気になることがある。
「使者様ってどこからの?」
かたわらでひざまずいた彼女に合わせて、己もひざまずきながら、尋ねた。猫に聞こえぬように、あくまでひそひそ声で。
「運営政府じゃ」
上から声。やはり猫だけに耳はいいらしい。それ以上に、なんて言った、あの猫。運営だと。まんまゲームじゃねえか。
「そなたが、このダンジョンの召喚師。そのかたわらにおるのがダンジョン・マスターで間違いないな」
「相違ございません」
彼女の声はいつになく落ち着いたものであった。
「相違ございません」
慌てて俺もその言い慣れぬ言葉を繰り返す。
「よろしい。では、運営政府からの伝言じゃ。そなたらのダンジョンはチュートリアルから外されることにあいなった。通常なら初級ダンジョンのランクに配置されるのだが、そなたらのあまりの強さをかんがみて、特別に指名ダンジョンへと抜擢することにあいなった。ついては名を決める権利を与えよう。いかがする? ダンジョン・マスターよ」
それに答えず、想わず俺はこぼしていた。
「指名ダンジョン。最悪じゃねえか。初級どころか中級もすっ飛ばしてやがる。名うてのプレイヤーどもが押し寄せて来るぞ」
「どうするのじゃ?」
再びの催促に、
「『運ゲー野郎』でお願いします」
俺は半ばやけになって答えていた。