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第14話  桃先輩1

 桃先輩がぞろぞろと『無勝堂』のレベル0モンスターを連れてやって来た。女神様に預けるためだ。そしてその足でそのまま学校に向かうという。


 女神様は、それらのモンスターを自室に案内するために、一端、席を外した。安全のためだ。その間、俺は桃先輩と立ち話をすることに。


 護衛役として、大きなワラ人形を伴っている。名前は呪々(じゅじゅ)とのこと。人間サイズとはいえ、全身、ワラでできており、頑丈さではこころもとない気もする。ただ、ワラをくりぬいた穴としか見えぬ目や口が開いたり閉じたりする様は十分に恐ろしい。しっかり守るというより、恐ろし気な風貌で敵の接近をはばむということなのだろう。


「どんなアビリティを持ってるの?」と尋ねると、桃先輩、いわく


「相手の攻撃を自らの内に無限にためることができるの。そしてそれを呪いに変換して、呪殺するの」


「おお。実際強いんだね。こけ脅しと想ったけど」


 すると、呪々の目に相当する丸い黒穴が1本線に変じた。


「ああ。頼むから、俺を呪わないでくれよ」


「心配無用よ。呪々は優しいから」


「そうだ。護衛として鎌次郎も連れて行ってよ」


「いいの? 強いモンスターなんでしょう」


「だからだよ。桃先輩に何かあったら大変だし、何より女神様が悲しむ」


「なるほど。そして、蓮華が悲しめば、道夫君も辛いと。そうね。意地を張る必要も無いわね。ありがたくお借りするわ」


「多分、ダンジョンの入口をのぞけば敵に遭遇することは無いと想う。ゲームには、フィールド――つまり地上の世界のことだけどそこをプレイヤー――これは敵ね――がうろつくことはないから。だから、入口には近づかないで」


 女王の件もあり、多少はこの世界がゲームに由来するものとの認識は深まっているであろうと考えての発言であったが。


「ゲームね。それって本当なのね。以前から蓮華がときどき言っていたの。マスターの道夫君が変なことを言うの。大丈夫かしらとね」


(ああ。女神様。やっぱり納得していなかったか)


 その当時の不審な顔が想い出される。


「それが本当なら、というか、本当なんでしょうね。女王を中心として運営政府が動くくらいなんだから。こんど時間があいたとき、いろいろと教えて欲しいわ。そういえば、蓮華から聞いたけど、ゲームには召喚師は出て来ないというのは本当なの?」


「そうだよ」


「そうなんだ」という桃先輩の顔は納得していない。


「裏設定みたいなものかな。ほら、ゲームをそのまま持って来ても、世界は成り立たないし、その不足しているとこを補うための設定」


 と一応、説明してみたが、桃先輩の顔は変わらず。


「不思議ね。ほら、この前、福ちゃんたちが来たときも言ったけど、この世界の中心はマスターと召喚師と想えるのよね。それなのに。どう考えるべきかしら?」


 答えたくとも、俺の中にその答えはなかった。難しく考えすぎだよ、との陳腐な言葉しか想いつかず、さすがに言うは控えた。


 そうこうしているうちに女神様が出て来た。


 そういえば、屁コキ野郎とピヨ丸がいないのよね。来ていない?」


 と桃先輩が尋ねると、女神様いわく、


「見てないわ。あいつが来たなら、絶対、攻撃して来るはずだから、来てないと想うわ」


「そう。やっぱり地獄巡りの方なのね。どちらもあすこのマスターには可愛がられているみたいだし」


 そんなこんなでカッパ先生がやって来た。


「ああ。沙悟浄先生。ご苦労様です」とは俺。


「尻子玉先生。桃先輩を頼みますわ」と女神様の高い声がはじけ、


「わざわざお迎えに来ていただくのは、心苦しいですが、行くとしましょうか。尻子玉先生」と桃先輩のやや低い落ち着いた声が続けば、


 呼ばれた方も嬉し気である。


 こうして、俺の最後のあらがいは打ち砕かれたのだった。


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