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第10話  鉄チン2

「カクレンボをなさりたいのですか?」


 相手がマスターであり、そんなはず無いと分かり切っておるにも関わらず、想わず、鉄チンはそう問い返しておった。


 ひとつには、こう問われたからだった。「我がどこにおるか分かるかな?」


 ただ、それ以上に、少しいらついたゆえだった。


 地獄巡りを出た鉄チンは、隠し通路を通り、今、ダンジョン『ぺろぺろ』のマスターの部屋におった。自らの身を部屋から守るために、竜の脱皮を二重にまとって。


 少しばかり前、マスターに敵との戦いを見て行けと言われた。こんなところは、己の敬愛する『地獄巡り』のマスターに似ている。現れた敵は、まさにその部屋に呑まれていった。何もできぬままに、その体は崩れ去った。


 本来なら、感嘆すべきその圧倒的な強さを見せつけられても、不機嫌なままであった。どうにも、マスターの真意がつかみかねるゆえであった。属性の間に入ったがゆえに、こうなったのか、入る前からこうなのか、それを判断できるほどにマスターとの付き合いは長くない。


 ダンジョン連合の発展のためにこそ、使者の任に身をささげる鉄チンである。各ダンジョンの協力が必須と考え、それを円滑になさしめるためには、まずは各マスターのお考えを知るべきと、そう鉄チンは考えるのだが。


 それが、ことのほか、難しいのが、今、この部屋におるマスターであった。


 そしてカクレンボ発言のあとのこと。何とか気を取り直した鉄チンは重要な用事にとりかかる。地獄巡りのマスターから依頼されておったモンスターの派遣について許可を求めたのだ。すると、召喚師と相談せよと言われる始末である。


 それでは、マスターの任務放棄もはなはだしい、そう心中でなじるだけでは足りず、どうにも口をついて出そうで、早くここを出なければと自覚した鉄チンはこう尋ねた。


「何か、ご依頼はありませんか。あるいは、他のダンジョンへの言伝ことづてなど」


「我がどこに」


 相手が全てを言い終わる前に、「分かりませぬ」と鉄チンは答える。すると、満足げな波動が部屋から伝わって来る。少しばかり待ち、マスターがもう会話を続ける気がないことを確認してから、部屋を出た。


 以前、マスターを訪ねたときは、まだ、体の一部が見えておった。今となっては、むしろ、それは残滓ざんしであったのかと想う。本体の方は着々と部屋との融合を進めておったのだろう。そして、今はそれが完全になされたらしく、マスターの姿はどこにも見当たらなかった。


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