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第7話 ことの始まり7

 いざ、教えてもらうという段になって、やっぱり最初は舞を習うのかな?と想ったけど――何せ、2人ともすごくきれいだったし、何より習得も大変そうだ――そこは好きにすれば良いとのこと。要は精神が統一できればよく、舞も歌もそのための手段に過ぎないと。何なら、踊らなくても良いし、歌わなくても良いとのこと。


 正直、ホッとした。伝統的な踊りであれ現代のダンスであれ無縁な俺だし、歌の方はといえば、音痴だ。精神統一できそうなもの、何かあるかなと記憶を探り、最初に出て来たのはやっぱりこれ。テレビアニメか映画で見たんだと想う。


臨兵闘者皆陣列在前りんぴょうとうじゃかいじんれつざいぜん」と唱えつつ、空中を指先で切る。もっともあやふやな記憶頼りなので、切り方もいい加減であり、あくまでなんちゃって九字なのだが。


 ただ、俺の心は期待してしまう。モンスターよ。出て来い。結果は音沙汰なしであった。


 最初からうまく行く訳もないかと想い直し、もう一度やってみようというところで、


「ああ、言い忘れたけど、スライムを想い浮かべてね。これも言葉に出す出さないは自由だけど」と桃先輩。


 スライムね。すぐに頭に浮かんだのは三助。なんてったって相棒である。これは精神統一しやすいかもしれない。そこで、もう1回、なんちゃって九字を切り、最後に「三助」と呼びかける。何も出て来ない。


 そんなとき、隣から声が聞こえた。カッパさんである。

「師匠。最悪ですぜ。スライムと言われると、あの女王の乗った、のっぺらぼうの黒スライムしか想い浮かびません」


「ほら、もう1体おっただろう。地獄巡りで会った。我らとではなく、あすこのマスターとは共に戦った。はて。名は何と言ったか?」

 ダルマさんは首をひねっている……気がした。何せ首は無いのである。


「鉄チンですか」俺が助け船を出す。


「おお。そうそう」とダルマさん。


「ああ。確かに戦いのあと、少し話しましたね。ダンジョン連合の使者を務めておりますと言っておった」


 ようやく想い浮かべる相手が定まったらしく、カッパさんは奇妙な踊りを始め――ドジョウすくいのような――知らない言葉をとなえる。ただ、結果は、同じく無し。


 更にその隣をうかがう。ダルマさんはまいも言葉も無しか。瞑想の境地という奴だろう。俺だったら、邪念が湧いて仕方ないとなりそうだけど、ダルマさんにはお似合いだ。ただ、ダルマさんに動きもないが、何かが出て来る気配もない。


 やっぱり難しいんだな。ただ、あきらめるには早すぎるとばかりに、想いつく限りの念仏――といっても、『南無阿弥陀仏』と「南無妙法蓮華経」の2つのみ。それでも親鸞さんと日蓮さんが応援してくれるってんなら、こんなに心強いことはないだろう。九字を合わせれば、合計3つ。


 そして想いつく限りのスライム――三助や鉄チンに限らず、前の世のマンガなどで見たもの。


 これら前者と後者のすべての組み合わせを試し終え、疲れ切ったころ。相変わらずまったく動かぬダルマさんにある疑念が浮かび、カッパさんに尋ねてみる。


「福ちゃん。もしかして、寝てる?」


「勘弁してくださいよ。これでも師匠なんですから。起こせる訳ないじゃないですか。でも、召喚術って難しいんですね。我はもう無理ぽ」


 そのやり取りを聞いておったのか、桃先輩が口を開く。


「もしかしてと想ったけど、やっぱり無理そうね」


 俺はダルマさんを起こさなきゃと想い、カッパさんの肩越しに、手をめいいっぱい伸ばし、何とか指先で押す。ダルマさんの体が大きく傾く。やばいぞ。このままでは倒れる。ただ、カッパさんの体が邪魔になって、手をこれ以上伸ばすことはできない。


 ゴメン、ダルマさんとの声が口から出かけたとき、その体が戻って来た。そしてしばらく左右に揺れておったが、やがて止まる。ああ。良かった。見事な復活劇だったな。ただ、何も言葉を発さぬところを見ると、どうやら本当に寝ておるらしい。


 ただ、何を想ったか、今度はカッパさんがつんとその体を押す。するとやはり倒れるも揺り戻す。また押す。また戻る。また、と何度もそれを繰り返す。師匠って言ってたよね、良くないよとの制止の言葉を控えざるを得ないほど、カッパさんの表情は楽しそう。ここを訪れて1番の笑顔と言って良い。

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