82番地 エピローグ4
トトトとの足音が聞こえたと想うと、床に倒れ伏していた上半身は抱えられる。
おお。俺は深く感動した。
女神様が最初に駆け寄ったのは、三助ではなく俺だった。苦節10年――なんてことはないが――ようやく俺は女神様にとって1番大事な人になったらしい。
これ以上に感動することなどある訳ない。ところが、あるのである。まさに、今の俺がそれだった。蓮華ちゃんの蓮華ちゃんが俺のほっぺあたりに当たっている。苦節100年――そんなはずはないが、気分はそんなである。
それもこれも師匠三助直伝の死んだふり作戦が見事に成功したおかげだった。
死んだふり……死んだふり……と。ここで、俺の頭はある連想に引き戻される。俺って、さっき仮死の魔法に騙され、あやうく死にかけた。想わず身内に恐怖がよみがえり、体がびくっと震える。そればかりか、目まで開けてしまった俺は、女神様と目が合ってしまう。そして、その女神様の顔、どこかで見たことあると想ったら、転生直後に想わず女神様を押しのけてしまったときの顔。
俺、またやらかしたのか。俺って、成長してねえ。
そんな俺の気を知ってか知らずか、女神様は「道夫は大丈夫そうね」と言って、床に戻し、たいして離れておらぬところにおった三助を抱き上げた。
やはりピクリとも動かぬ。さすがに死んだふりの師匠だけはある。仮死の魔法にだまされて死にそうになったは、三助も同じ。何という、メンタルの強さ。おみそれしました。三助こそ、真のダンジョン・マスターと言えよう。がっくりした俺は最後に1句。
女神様の 女神様は 遠くにありて想うもの by道夫