80番地 エピローグ2
鉄チン(鉄スライム)はスヤスヤ眠るマスターの竜顔を見て、己もようやくほっと一息つく。それから、竜の脱皮をまとったままなのに気付き、脱いだ。
マスターは戦いで疲れ切ったというのもあるが、泣きはらした結果でもあった。ミノタウロスと陽炎が残り2体をあっさり倒し――敵は3体そろってこそのあの強さだったと想われる――これで、ようやく完全に仇を討ったとして泣き、そして股肱の神将たる雷公が戻らぬと知り、更に泣きぬれたのだった。
鉄チンが懸念した通り、召喚師様が亡くなると、そのダンジョンのモンスターは復活しなくなる。マスターにそのことを確認すると、
「我らの復活は、召喚師に与えられた吉祥にほかならぬ。召喚師が亡くなれば、それが失われるのも必定。この世界から喜ばしきものが奪われるに等しい」
ここで亡き妻に想いが至ったのか、マスターはまたひとしきり泣いた。
(そうであれば、やはり召喚師様の死、イコール、ダンジョンの滅びということになる。とすれば、以前に疑ったように、召喚師様の殺害を欲した女王が最終的に求めたのは、ダンジョンの滅亡? そう、結論づけても良いのかもしれない。でも、何のために? マスターの言われたことが、この世界のことわりならば、召喚師様の存在はこの世界の中心。それに嫉妬して? まさか、そんなもののために)
その鉄チンの想いは、一つの状景に連なる。これより前、マスターとともに雷公を葬送したのだ。復活しない雷公の体は消失することはなかった。
マスターは自らその遺体を抱き、ダンジョンの1室に入った。そこはマスターの間の更に奥にあった。その配置から考えるに、恐らくは、召喚師様が生前使っておられた部屋の一つであろう。
そこには他にもたくさんのモンスターが寝かされておった。ただ、ピクリとも動かぬ。マスターによれば、いずれも召喚師様の死後に亡くなったモンスターたちであるという。鉄チンはその中に見慣れた者にそっくりな遺体を発見した。あの運営使者である。