第12話 因果律、再び
さて、ここから現在に話は戻る。
三助と俺の分のときのみは、所詮、数個の実なので、カゴに入れてひとまとめにして持って来ることができた。ただ、体数が増え、またモンスターの中には、食の好みにうるさい者が多いらしく、そのために彼女は何度も行き来する必要があった。隣の部屋とはいえ、大変そうに想えたのだ。それで、彼女に言ったのだ。
「俺たちが取りに行こうか?」
彼女はしばし戸惑う風であったが、やがて言う。
「そうね。丁度、相談しなきゃいけないと想っていたところ。見せたいものがあるの。来てくれる」
そう言われ、何ごとかと想い、ついて行く。俺のみでなく、三助たちもぞろぞろと。
ただ、ミーたんのみは寸分も動く気配なし。そのミーたんへ、彼女は「見張っていてね。敵が来たら、教えて」
上からは「はーい」とのドラ声が降って来た。
案内されたところは、以前に来た一番奥の果実畑――果実と呼んでよいかは定かではないけれど。ただ、少しばかり、というか、大きく変容していた。ダンジョンの向こう側ができていたのである。畑を抜けて行くと、一部屋があり、更にその奥にもう一部屋があった。
「すごいね。掘ったんだ。言ってくれれば、手伝ったのに」
「違うわ。あなたたちが勝ったから、広がったのよ」
そう言われても、すぐには呑み込めない。
「何もしなくても、広がったってこと?」
「何もしなくてじゃないわよ。勝ったからよ。これも、一種の勝利のご褒美よ」
俺はしゃがみ込み、床の土を触ってみる。少し湿っていて、冷たく感じられ、前の世界と何ら変わるところはない。
「どうしたの?」
「いや。前の世界じゃひとりでに掘れたりしないから。本物の土かなと想ってね。ただ、そう見えているだけなんじゃないか? 実際は、ただの数値データ――三次元の座標データ――に過ぎないんじゃないかと」
「座標データ?」
彼女の眉間に皺が寄った。不審が強いと彼女はこんな顔をする。
「この世界と俺が前にいた世界では、物質は原子からできている。この世界では数値データではないかと。前の世界の因果律は、物理法則だけど、この世界の因果律は」
ゲームと続けようとして、止めにした。彼女の眉間の皺がより深くなるのを見たくはなかったから。
「難しい言葉は良くわからないけど、道夫がいた世界とここが違うのは当たり前じゃないの。だって、別の世界だもの」彼女が彼女なりの解決案を示してくれたかたわらで。
(ここでは、全てがゲームを成り立たせるために、決められているんじゃないだろうか? )俺は俺で答えのない問いに囚われざるを得なかった。




