79番地 エピローグ1
『地獄巡り』ダンジョンの雷公の間の隣室にてのこと。母上をしりぞけた運営政府の反徒たちは、車座となり顔を寄せ合っておった。
「ヒュプノスいわく、あの修復子の誤・転生体は母上であるという。更には、その者に部分上書きをされたとのこと」
と風神(第23人格A)が、孫悟空(第23人格C@『運ゲー野郎』)の耳目を通じて知ったことを、福ダルマ人形(第4人格)と阿修羅王(第6人格)に説明する。
「なんと。とすると、わしが受けたのも部分上書きであったか」と阿修羅王。
「自覚は無かったのか? 確かに十二分に戦えておったな」と福ダルマ人形。
「いや。実は問題はあったのだ。機体の制御に支障が生じておった。この阿修羅王の強さはオートモードのおかげよ。他方で、この制御不調が部分上書きによるものと考えれば、納得しうるところではある」と阿修羅王。
「ところで、誤・転生体が母上というのは、どういうことなのでしょう?」と雷神。
「知られておる分岐体の最大数は3。陰・陽で2体、誤・転生体に1体という形で析出したのだろう。それはそうとして、ならば、あ奴をどうするか?」と福ダルマ人形。
「これもヒュプノスいわくですが、あ奴は、ダンジョンに属する者たちを助けるために、ヒュプノスたちと対峙したと。母上の分岐体といっても、陰・陽の考えとはずいぶん異なるようです」と風神。
「そうか。まあ、そもそも誤・転生体なのだ。召喚してくれた召喚師にも懐こうし、属するダンジョンのマスターにも懐こう。召喚師の殺害を欲した陰・陽と真逆となっても、不思議ではないか。なぜ、母上はそんな分岐をしたのか?というのは、気になるところだが」と福だるま人形。
「運営使者(巨大白猫)は、せっかく同じ世に生まれたならば、殺し合うべきではない、共存の道を図るべきであろう、その相手がだれであれ、と言っておった。この今の状況が、あの者がまさに2度と析出できぬことを代償として手に入れたことを考えれば、あの者の望みというものを考える必要がありましょう」と阿修羅王。
彼らの中で唯一今ここにおらぬ者への言及は、いやしがたい痛みを各々にもたたらしたようであったが。
「何が言いたい。はっきりと言ってくれ」と福ダルマ人形。
「とりあえず、無罪放免で良いのではないかと」と阿修羅王。
「そうですね。母上というだけで捕らえておっては、我らも陰・陽とさして変わらぬとなりましょう」と風神。そして、雷神もそれに賛意を示した。
「分かった。皆がそう言うなら、わしもあえて反対すまい。ただ、緩やかな監視というものは必要かもしれぬがな」と福ダルマ人形は結論づけた。